塊根植物・多肉植物育成におけるバーミキュライト・ピートモスの適否

🌱 バーミキュライト・ピートモスは塊根・多肉に向くのか?

塊根植物や多肉植物を健全に育てるためには、根が酸素を取り込める空気の隙間と、水分を吸える薄い水の膜、その両方が土の中でバランスよく存在することが欠かせません。一般的な培養土に広く使われるバーミキュライトとピートモスは、保水・保肥に秀でますが、塊根・多肉の「通気優先」という要求と衝突する場面が少なくありません。本稿では、植物生理学・土壌物理・微生物生態の観点から両資材の適否を検討し、長期栽培における注意点と代替案を整理します。

🌬️ 塊根・多肉の根が好む環境を科学で捉える

根は「酸素」と「薄い水膜」の同時確保を必要とする

空気相率(AFP)とは、潅水後に用土全体に占める空気の体積割合を指す指標です。温室園芸の基準では、空気相率は少なくとも10%、多くても25%程度が推奨され、総孔隙率は50%以上が望ましいと報告されています(Tjosvold, 2019)。塊根・多肉は乾燥地の鉱質土壌に適応した種が多く、一般観葉より通気側に余裕を持たせる設計が安全です。これに対し、過度の含水は根の呼吸を抑え、還元的環境や病原微生物の優占を招きます(Tjosvold, 2019)。

🧪 バーミキュライトの理(ことわり)—利点と限界

性質:保水・保肥に優れるが、構造は脆い

バーミキュライトは層状の膨張雲母で、保水性が高く自重の約5倍の水を吸収し(ICRAF, 年不詳)、陽イオン交換容量(CEC)も高い材料です。CECとは「土粒子がカリウムやアンモニウムなどの正電荷の栄養イオンを一時的に保持し、交換供給する能力」を意味します。一方で、バーミキュライトは構造が脆く、いったん圧縮されると元の膨らみを取り戻しにくい欠点が古典的資料で指摘されています(ICRAF, 年不詳)。潅水や上載荷重の繰り返しで微細孔が目詰まりし、空気相の減少→酸素不足に連鎖しやすい点に注意が要ります。

長期栽培では「通気の確保」を最優先にする

播種・挿し木など短期の発根・活着ステージでは、バーミキュライトの高保水は武器になります。ただし、塊根・多肉の多年・鉢内長期栽培では、粒子の圧縮・崩壊により気相が減り、根腐れリスクが高まります。骨格を作る素材(例:軽石系・焼成土・日向土・パーライト)と比べると、長期の通気安定性で不利です。

💧 ピートモスの理—高い保水・保肥と「乾くと弾く」挙動

性質:強酸性・高保水・高CEC、乾燥後は疎水化

ピートモスはミズゴケ由来の有機資材で、pHがおおむね3.0〜4.5の酸性保水は乾燥重量の15〜30倍に達します(ICRAF, 年不詳;Lee, 2021)。高いCECによって栄養保持に優れますが、疎水化—「乾き切ると水を弾いて再び濡れにくくなる現象」—を示すため、乾湿メリハリ灌水を基本とする塊根・多肉では扱いに注意が必要です。温室園芸の現場資料でも、ピートモスを多く含む培地は乾燥後の再湿潤が難しく、容器内での収縮と側壁チャンネリング(水が鉢壁を伝い内部へ浸透しない現象)を起こすと報告されています(Purdue Extension, 2015)。
ちなみに、ヤシ殻由来のココピートは構造的にリグニンが多いため分解されにくく、乾燥後も再湿潤しやすい特性を持ち、ピートモスとは挙動が異なります。

微生物生態:有機物優占環境は害虫・病害の足場になる

ピートモス主体の湿潤基質は、糸状菌キノコバエ(Sciaridae)の好適環境になりやすいことが知られています。実務系レビューでは「高含水・有機質リッチ」な培地ほどキノコバエの誘引性が高いと整理され、ココピートも湿潤条件では同様に活動を許す可能性が示されています(Clemson University, 2021)。室内で清潔性を重視する塊根・多肉の鉢管理では、湿潤持続の回避有機比率の抑制が鍵になります。

📊 資材比較:物理・化学・生物の三面でみる(塊根・多肉視点)

主要資材の比較表

資材pHの目安保水性保肥力(CEC)再湿潤性構造安定性塊根・多肉への総評
バーミキュライト 🧪中性〜ややアルカリ(産地差)高(自重の約5倍)(ICRAF, 年不詳)高(層状粘土由来)(ICRAF, 年不詳)良(乾きにくい)低(圧縮で不可逆)(ICRAF, 年不詳)短期の発根補助に限定的活用、長期骨格材には不向き
ピートモス 💧強酸性(pH 3.0–4.5)(Lee, 2021)極高(15–30倍)(ICRAF, 年不詳)高(有機コロイド)(Lee, 2021)劣(乾燥後は疎水化)(Purdue Extension, 2015)中〜低(長期で収縮・目詰まり)(Purdue Extension, 2015)乾湿メリハリ管理と相性が悪く、室内では害虫誘因にも注意
ココピート 🪵弱酸性〜中性(概ね5.5–6.5)(UAEX, 2025)高(最大9倍)(UAEX, 2025)中〜高良(乾燥後も再湿潤しやすい)(UAEX, 2025)中〜高(リグニン多く分解遅い)(UAEX, 2025)有機の中では扱いやすい。過湿回避とEC管理を併用
ゼオライト 🪨中性付近高(例:127 cMol/kg)(Szatanik‑Kloc, 2021)高(骨格維持に寄与)保肥の“緩衝材”。無機骨格と併用で栄養安定に寄与
日向土(軽石系)🧱中性付近高(硬質粒子)通気・排水の骨格材として主力
パーライト 🫧中性低〜中通気・軽量化に有効。長期の目詰まりに比較的強い

🌵 代表グループでの“微調整”の考え方

アガベ(Agave)—とにかく排水・通気優先

生育の安定にはよく通気し自由排水する基質が必須で、一般観葉の配合からの変更が勧められます(UF/IFAS, 2004)。ピートモス高配合の培地は、冷涼期や日照不足下で保水過多を招きやすく、バーミキュライト+ピートモスの組み合わせは長期鉢植えでは安全域が狭くなります。骨格材(軽石・日向土・パーライト)を主体に、ごく少量の有機で水膜を残す考え方が合理的です(UF/IFAS, 2023)。

パキポディウム(Pachypodium)—生育期は薄い水膜、休眠期は強い乾燥

塊根の通気が止まると基部腐敗に直結します。生育期は骨格材主体で薄い水膜を確保し、休眠期は乾燥バッファを大きく取る設計が安全です。ピートモスは疎水化と収縮が制御を難しくするため、有機はココピートやココチップを少量に留める方が再湿潤と清潔性の点で扱いやすいです(Purdue Extension, 2015;UAEX, 2025)。

ユーフォルビア(Euphorbia)—通気不良で根痛み・徒長しやすい

多肉性ユーフォルビアは過湿で根が機能低下しやすく、沈水化→徒長→基部腐敗の負の連鎖を避ける必要があります。ピートモス主体やバーミキュライト高配合は潅水直後の空気相喪失を招きやすく、骨格材優位+少量の有機・保肥材で空気相率10〜25%の帯に収める配合が現実的です(Tjosvold, 2019)。

🧭 実務への落とし込み:配合と運用のフレーム

配合の原則(長期鉢内安定を優先)

第一に骨格材の比率を高く取り、潅水直後でも空気の通り道が確保されるよう設計します(例:日向土・パーライト)。第二に、保肥の緩衝材としてゼオライトを混和し、施肥の効き過ぎや流亡を緩和します(Szatanik‑Kloc, 2021)。第三に、有機は再湿潤性と清潔性を重視してココピート・ココチップに限定し、乾湿の切り替わりを妨げない量に留めます(UAEX, 2025)。

運用の原則(微生物・害虫の観点を含む)

潅水は「しっかり濡らし、しっかり乾かす」サイクルを守り、鉢内の持続的湿潤を避けます。湿った有機質基質はキノコバエの温床になりやすく(Clemson University, 2021)、屋内では特に過湿の回避=害虫予防と考えて管理します。乾き切って再湿潤しにくい基質には、事前の十分なプレウエット(温水や潤湿剤の活用)が有効です(Purdue Extension, 2015)。

🧩 本記事の結論

バーミキュライトとピートモスは「保水・保肥に優れる」一方で、塊根・多肉の「通気優先・乾湿メリハリ」という要求とは相性が悪くなる場面が少なくありません。前者は圧縮による空気相の喪失、後者は疎水化と収縮が長期の安定管理を難しくします。長期栽培では、日向土やパーライトなどの無機骨格を主体に、ゼオライトで保肥を補正再湿潤性のよいココ由来有機を少量で支える設計が理に適います。

🔗 PHI BLEND(控えめなご案内)

塊根・多肉の長期栽培に求められる「排水・通気・清潔性」と「適度な保水・保肥」の両立を目指し、無機質75%・有機質25%、無機は日向土・パーライト・ゼオライト、有機はココチップ・ココピートという設計としています。詳しくは製品ページをご覧ください。

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塊根植物・多肉植物の用土全般に関するサマリーは以下をご覧ください。

塊根・多肉植物の用土完全ガイド【決定版】

📚 参考文献

  • Tjosvold, S. (2019). Soil Mixes Part 3: How much air and water? UC ANR.
  • Purdue Extension (2015). Commercial Greenhouse & Nursery Production(HO‑255‑W).
  • ICRAF(年不詳). Nursery Manuals: Substrates(世界アグロフォレストリーセンター資料).
  • Lee, S.Y. et al. (2021). Effect on Chemical and Physical Properties of Soil. Int. J. Environ. Res. Public Health.
  • Szatanik‑Kloc, A. et al. (2021). Effect of Low Zeolite Doses on Plants and Soil. Agronomy.
  • UAEX(2025). Growing Media for Container Production in a Greenhouse or Nursery(FSA‑6097).
  • Clemson University(2021). Integrated Pest Management Strategies for Fungus Gnats.
  • UF/IFAS(2004). Warm Climate Production Guidelines for Agave.
  • UF/IFAS(2023). Succulents: Identification and Care Fact Sheet.
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