
風・湿度・空調総論:VPDで考える健全生育🍃
塊根植物や多肉植物を「綺麗に大きく育てる」ためには、光量や水やりだけでは十分ではありません。室内や温室といった限られた空間では、葉の表面と空気のあいだで行われる水分と熱、そして二酸化炭素(CO₂)のやり取りを、植物の立場から設計し直す必要があります。本稿では、その設計の共通言語としてVPD(Vapor Pressure Deficit:空気の乾きの強さ)を据え、風(気流)・湿度・空調(除湿/加湿/換気・風向)の三要素を結び付けて考えます。専門用語は簡潔な定義を付し、数値や閾値は学術資料に基づいて明記します。
1.VPDとは何か――相対湿度では見えない「乾きの力」🍂
1-1.定義:空気がどれだけ水を欲しているか
VPD(空気の乾きの強さ)とは、同じ温度における飽和水蒸気圧(その温度で空気に含める水蒸気の上限の圧力)から、実際に空気中に存在する水蒸気圧を引いた差です。単位はキロパスカル(kPa)で表します。VPDが大きいほど、空気は水を強く求めており、葉から空気へ水が抜けやすくなります。相対湿度(%)(いわゆる湿度)は温度の影響を強く受けますが、VPDは蒸散や結露の起こりやすさに直接関わるため、植物生理の説明力が高い指標です(Allen et al., 1998)。
蒸気圧という言葉はイメージしにくいかもしれないので、もう少し簡単に説明します。私たちになじみのある「湿度」は、科学用語では相対湿度と呼ばれています。私たちは「湿度は空気中に何%くらい水分が含まれているか」だと理解していますが、正確には「今の温度で最大限に空気が含むことができる水分のうち、何%の水分が含まれているか」を指しています。
これに対し、VPDは「今の温度で最大限に空気が含むことができる水分」から「実際に含まれている水分」を引いた値です。湿度は割合、VPDは実際の量です。VPDが高いほど「空気はまだ水分を蓄える余裕がある=水を欲している」ということになります。
1-2.計算の考え方:式は覚えなくても筋道は押さえる
VPDは「その温度での飽和水蒸気圧に、相対湿度の割合を掛けた実際の水蒸気圧を差し引く」だけです。つまり、飽和水蒸気圧 ×(1−相対湿度)という考え方で求められます。飽和水蒸気圧は温度が1℃上がるごとに増える性質を持ち、温かい空気ほどVPDが上がりやすくなります(Allen et al., 1998)。現場では、後述の「簡易VPD表」や計算シートを用いれば十分に実用的です。
1-3.葉温とVPDのズレ:測るのは空気か、それとも葉か
葉温(ようおん:葉の表面温度)は、照明や日射の当たり方、風の強さ、蒸散の度合いで気温とズレます。そこで、気温で計算した値をVPD_air、葉温で飽和水蒸気圧を見積もった値をVPD_leafと区別します。たとえば気温25℃・相対湿度60%のとき、VPD_airは約1.27kPaですが、葉温が23℃ならVPD_leafは約0.91kPa、葉温が27℃なら約1.67kPaとなり、同じ「室温・湿度」でも30%以上の差が生じます。蒸散や気孔の開閉が起こるのは葉の表面ですから、VPD_leafの方が実態に近いと考えるのが安全です(Kubota, 2023)。
1-4.VPDが高すぎる/低すぎると何が起こるか
VPDが大きい(空気が乾いている)ほど蒸散は促進され、葉は気化冷却で温度を下げられます。しかし、水の供給が追いつかなくなると、植物は水分を守るために気孔を閉じ、CO₂の取り込みが落ち、光合成が低下します。反対にVPDが小さすぎる(空気が湿りすぎる)と、葉の周りに湿った空気の層が厚くなり、蒸散が進まず、結露や病害の温床になります。多くの作物で「中庸帯」の存在が示され、VPDの変動を抑えることが気孔コンダクタンスと光合成の安定に寄与すると報告されています(Grossiord et al., 2020;Inoue et al., 2021)。🌿 VPDの「中庸帯」とは、空気の乾き具合が高すぎても低すぎてもいけない中で、植物が最も安定して光合成できるちょうど良い範囲を指します。ここにできるだけ長く滞在させると、気孔(葉の小さな穴)の開き方が安定し、CO₂の取り込みと蒸散のバランスが整い、結果として成長が乱れにくくなります(Grossiord et al., 2020)。
⏱️ さらに、VPDが日内や日ごとに大きく上下しないことも大切です。乾き具合が乱高下すると、気孔が開いたり閉じたりを繰り返して同化(光合成)の速度が不安定になります。逆に、VPDを「ちょうど良い範囲」にできるだけ一定に保つと、気孔コンダクタンス(気孔の開き具合)と光合成が滑らかに維持され、生育が安定します(Inoue et al., 2021)。
💡 設定のコツ:日中はおおむね0.8〜1.3kPa、夜間は0.4〜0.8kPaを目安に、温度と湿度を調整すると「中庸帯」を外しにくくなります。強光直後や無風時は葉の温度が変わりやすいので、必要に応じて葉温でのVPD(VPD_leaf)も確認してください(Kubota, 2023)。
2.「正しく測る」から始める――センサー位置と基本の運用🌡️
2-1.温湿度センサーはキャノピー高さに
キャノピー(植物群落の上面)の高さに温湿度計を設置し、直射日光、エアコンの吹き出し、窓や壁からの影響を避けます。小型ファンで一定風を与える通風シールドを使うと、放射や局所ドラフトの誤差が減ります。小さな栽培室ほど温度勾配が大きいため、最低でも2か所以上で測り、偏りを把握してください(Both et al., 2015)。
2-2.湿度計の簡易校正と風速の目安
相対湿度計は食塩飽和法で容易に点検できます。密閉容器に食塩と少量の水を入れ、その上にセンサーを置くと、容器内はおよそ75%RHで安定します。風速は0.25〜0.5m/s(50〜100fpm)を基本に、ティッシュの角が常に揺れ続ける程度を目安に整えます。この程度の「弱い循環風」で、葉の周りの静かな空気の膜(後述の境界層)が薄くなり、CO₂が供給され、湿りの滞留を防げます(Runkle, 2016)。
2-3.VPDの読み方と「逆算」
目標のVPDを決めたら、温度が決まっている場面では、逆に必要な相対湿度が定まります。例として、25℃でVPDを1.0kPa前後に保ちたいなら、相対湿度はおよそ65%が目安になります。下表は代表的な温度帯でのVPDの概算です(Allen et al., 1998)。
| 温度 | 相対湿度40% | 相対湿度60% | 相対湿度80% | 相対湿度90% |
|---|---|---|---|---|
| 20℃ | 約1.40kPa | 約0.94kPa | 約0.47kPa | 約0.23kPa |
| 25℃ | 約1.90kPa | 約1.27kPa | 約0.63kPa | 約0.32kPa |
| 30℃ | 約2.55kPa | 約1.70kPa | 約0.85kPa | 約0.42kPa |
💡ヒント:葉の温度が周囲より低く(蒸散で冷え)あるいは高い(強光で加熱)場合、上表のVPDは過小または過大評価になります。葉温で計算し直すと、ズレを小さくできます(Kubota, 2023)。
3.風(気流)で整える――境界層を薄く、短絡風を作らない💡
3-1.境界層というボトルネック
境界層(leaf boundary layer:葉の表面に貼り付く薄い静止空気の層)が厚いと、CO₂や水蒸気、熱の移動が滞ります。弱い循環風でこの層を薄く保つと、CO₂が常に新しく供給され、蒸散による葉の冷却も安定します。結果として、徒長の抑制、病害の抑制、養分輸送の安定につながります(Runkle, 2016)。
✅実務の目安:キャノピーの高さで0.25〜0.5m/sの風速を保ち、葉が常にわずかに揺れる程度にします。風を「当て続ける」のではなく、部屋全体を回す発想が安定します。
3-2.HAF(水平循環)と室内への応用
HAF(Horizontal Air Flow:水平循環)は温室で確立された気流設計で、壁に沿って大きな環状の気流を作ります。端壁から約3〜5mの位置に最初のファンを置き、以降約12〜15m間隔で並べると、温度ムラや湿りの滞留を抑えられます。室内栽培でも考え方は同じで、エアコンの吹き出しを壁に当て、サーキュレーターで壁沿いに空気を送ると、空気が壁伝いにぐるりと巡り、部屋全体を一周する大きな循環ができます。その結果、鉢全体に均一な微風が行き渡ります。(Farm Energy/Bartok, 2019)。
3-3.短絡風(ショートサーキット)を避ける
短絡風とは、吸気から排気までの最短ルートで風が抜けてしまい、肝心の栽培帯に新鮮な空気や乾いた空気が届かない状態を指します。排気口や窓の近くにファンを置くと起きやすく、部屋の一角に湿ったデッドゾーンが残ります。ファンは排気口から離し、壁沿いの循環を優先することで、短絡風を予防できます(Farm Energy/Bartok, 2019)。
4.湿度の設計――「高すぎる」と「低すぎる」の両方を避ける💧
4-1.過湿のリスク:結露と病害の入口
相対湿度が高い状態が続くと、葉や壁面が露点に達して結露し、濡れ時間が長くなります。灰色かび病(Botrytis)は高湿(85〜93%以上)で濡れ時間が8〜12時間続くと発病しやすく、梅雨時や夜間に起きやすい典型的な失敗です(UMass Extension, 2019;Penn State Extension, 2023)。
4-2.過乾のリスク:静電・ダストとハダニ
冬季の暖房期などで相対湿度が40%を下回ると、静電気が増え、ホコリが葉に付着しやすくなります。葉面での光の通り道が妨げられ、光合成効率が落ちるうえ、ハダニのような微小害虫が好む環境になります。室内では40〜60%RHを下限の目安とし、必要に応じて加湿してください(NASA KSC ESD;Oregon State Univ. Extension)。
4-3.湿度とVPDを「昼」と「夜」で使い分ける
同じ相対湿度でも温度が違えばVPDは変わります。日中は0.8〜1.3kPaを目安に、蒸散と光合成のバランスを取り、徒長を防ぎます。夜間は0.4〜0.8kPaで過湿と過乾の両方を避けます。とくにCAM型の多肉では、夜に気孔が開くため、夜間の過乾(VPDが高すぎる状態)は避けるべきです(Shamshiri et al., 2018;Males & Griffiths, 2017)。
5.換気とCO₂――「隠れ欠乏」をつくらない😮💨
5-1.密閉は想像以上にCO₂を奪う
日中に光合成が活発な環境では、群落内のCO₂が短時間で低下します。温室の実測では、何も対策しないと225ppm前後まで下がった例が報告されています。家庭の栽培室でも、午前中のうちに300ppm台まで下がることがあり、光は十分でも同化量が頭打ちになります(Tjosvold, 2018)。
5-2.時間で切る換気:朝の一斉換気と日中のサイクル換気
朝に一斉換気でCO₂を外気並みに戻し、日中は短時間のサイクル換気(1〜2時間ごとに数分)で過度の低下を防ぎます。夜は呼吸でCO₂が上がる一方、温度低下で結露しやすくなるため、就寝前の短時間換気+微風でVPDを中庸に整えます(OSU Extension, HLA-6723)。
5-3.風向と換気の組み合わせ
エアコンの吹き出しは壁に当てて回すと、気流が室内を巡回しやすくなります。窓を開ける換気では、サーキュレーターで窓の反対側から「押し出す」ように送風すると、空気の入れ替えが短時間で済み、相対湿度の乱高下を抑えられます。風と換気がかみ合うと、CO₂の欠乏と結露の両方を同時に抑えられます(Farm Energy/Bartok, 2019)。
6.季節運用――梅雨と冬で優先順位が変わる❄️
6-1.梅雨:結露の山を越えさせない
梅雨時は高湿で無風になりやすく、夜間に結露し、朝まで濡れた状態が続きがちです。夕刻に短時間の加温+換気で室内の水蒸気量を下げ、夜は連続の微風で境界層を湿らせないようにします。朝に一時換気で夜の間に溜まった湿気を逃がすと、濡れ時間を分断できます(UConn IPM, 2024;Penn State Extension, 2023)。
6-2.冬:乾燥と結露の両睨み
冬は暖房で乾き、夜間は窓や壁が冷えて結露しやすくなります。室内は40〜60%RHを下限の目安として加湿しつつ、寝る前に短時間の換気で水蒸気の総量を減らし、夜は微風で境界層を湿らせないように保ちます。朝は再び換気し、日中のCO₂欠乏を防ぎます。こうした「夕・夜・朝」の三段運用を定着させると、冬の失敗は大きく減ります(NASA KSC ESD;UConn IPM, 2024)。
7.品種差に合わせる――アガベ/パキポディウム/ユーフォルビアの具体例🌵
7-1.アガベ(Agave)――夜のVPDを中庸に
多くのアガベはCAM型(夜に気孔が開きCO₂を取り込む代謝)です。夜のVPDが高すぎる(空気が乾きすぎる)と、気孔が早く閉じ、夜間同化が落ちます。夜は0.4〜0.8kPaを中心に、就寝前の換気で水蒸気量を調整し、微風で結露を避けます。日中は0.8〜1.3kPaで徒長を抑えます(Males & Griffiths, 2017;Shamshiri et al., 2018)。
7-2.パキポディウム(Pachypodium)――発根期と剪定後は優しめに
パキポディウムは種によって代謝の振る舞いに幅があり、C3に近い挙動から部分的にCAM様の反応を示す報告もあります。発根期や剪定直後は、過乾で水の上がりが悪くなるリスクを避けるため、夜は0.4〜0.7kPa、日中も0.8kPa付近の穏やかな運用から始め、根が張るに連れて一般設定へ寄せていきます(Gilman et al., 2023;Inoue et al., 2021)。
7-3.ユーフォルビア(Euphorbia)――多様性に合わせて微調整
ユーフォルビアは種類が非常に多く、CAM、C4、C3+CAMの中間型など代謝の多様性が知られています。夜間の湿度許容量は種によって異なるため、夜のVPDを0.5〜0.8kPaから始め、葉先の乾きや艶の変化、翌日の水の上がり方を観察しながら微調整します。日中は0.8〜1.2kPaで徒長を抑え、強光時は風で葉温を下げる戦略が安定します(Horn et al., 2014;Males & Griffiths, 2017)。
⚠️注意:いずれの属でも、花芽分化直前・実生初期・病中の株は、短期間だけVPDを低め側で運用して回復を優先することがあります。その際も、結露は避け、濡れ時間を作らないことを最優先にしてください(UMass Extension, 2019;Penn State Extension, 2023)。
8.失敗の因果をたどる――起点から仕組み、そして対処へ😢
8-1.梅雨夜に起こる結露と病害の連鎖
梅雨の時期や雨天が続く夜間は、気温が下がる一方で湿度が高くなり、葉や壁の表面が露点(空気が飽和して水滴が生じる温度)に達しやすくなります。葉面に水滴がつくと、そのまま数時間にわたり濡れた状態が続きます。灰色かび病(Botrytis)は特にこの条件を好み、相対湿度が85〜93%を超え、濡れ時間が8〜12時間続くと感染が一気に進むと報告されています(UMass Extension, 2019;Penn State Extension, 2023)。
この悪循環を断つには、「結露を発生させないこと」と「濡れ時間を長くしないこと」が重要です。夕方の早い段階で短時間の加温と換気を行うと、室内の水蒸気量が下がり、露点に達しにくくなります。その後、夜間は弱い送風を継続し、葉の表面に停滞した湿った空気を動かすことで結露を防ぎます。翌朝は窓を開けるなどして一時換気を行い、夜間に溜まった湿気を排出すると病害の発生を大幅に減らせます(UConn IPM, 2024)。
8-2.密閉ケースで起きる酸欠とCO₂不足
透明ケースや小型温室を完全に閉め切って管理すると、日中は光合成が盛んに行われ、内部のCO₂が急速に消費されます。実際に、温室の調査では、外気が420ppm前後であるのに対して、密閉した環境では225ppm以下に低下した例も報告されています(Tjosvold, 2018)。CO₂が不足すると、いくら光が強くても光合成が頭打ちとなり、成長が鈍化します。
このリスクを避けるには、換気を時間で切る習慣が大切です。朝の一斉換気で内部のCO₂を外気レベルに戻し、日中は1〜2時間ごとに短時間のサイクル換気を入れると、急激な低下を防げます。さらに、換気と同時に弱い循環風を回しておくと、新鮮な空気が群落の奥まで届きやすくなり、葉裏や鉢の隙間でもCO₂不足を起こしにくくなります(OSU Extension, HLA-6723)。
8-3.冬の乾燥がもたらす静電気・ダスト・害虫の発生
冬は暖房の影響で室内が乾燥しやすく、相対湿度が40%を下回ることも珍しくありません。この環境では静電気が頻発し、ホコリが葉に付着します。葉面に汚れがたまると光合成が妨げられ、見た目も冴えなくなります。さらに乾燥した暖かい環境はハダニにとって好条件であり、発生が一気に拡大することがあります(Oregon State Univ. Extension)。
こうしたトラブルを防ぐには、まず40〜60%RHを下限の目安として加湿を行い、乾燥を防ぐことが基本です。同時に、夜間の結露を避けるために微風を継続し、就寝前に短時間換気で余分な水蒸気を逃がすと、乾燥と過湿の両方をバランスよく抑えられます。葉に付着したホコリは柔らかいクロスで拭き取るか、霧吹きで軽く湿らせて除去すると、光合成が改善し、害虫の住みかも減らせます。こうした小さな工夫の積み重ねが、冬場の安定した育成につながります。
9.一日の運用プレイブック――測定・操作・確認のリズム📝
9-1.朝:CO₂を満たしてスタートする
朝はまず一斉換気で室内のCO₂を外気並みに戻します。同時に、サーキュレーターを壁沿いに向けて回し、部屋全体の循環流を立ち上げます。温湿度計はキャノピー高さで読み取り、日中の目標VPD(0.8〜1.3kPa)に対して不足があれば、除湿あるいは加湿の準備に入ります(Allen et al., 1998;Shamshiri et al., 2018)。
9-2.日中:弱い循環を絶やさない
日中は0.25〜0.5m/sの弱い循環風をキープし、CO₂の補給と葉温の安定を図ります。小型温室や密閉ケースでは、1〜2時間ごとに数分のサイクル換気を入れ、CO₂のドロップを防ぎます。風は当てるのではなく回す、換気は開けっぱなしではなく時間で切る、この二つの原則を守ると、VPDの乱高下が減ります(Runkle, 2016;Tjosvold, 2018)。
9-3.夕刻:露点をまたがせない小さな工夫
夕方は気温が下がり、相対湿度が上がりやすくなります。ここで短時間の加温+換気を入れると、夜間の結露ピークを低くできます。日没以降は連続の微風で境界層が湿らないように保ち、朝に一時換気で夜の水蒸気を逃がすと、濡れ時間が分断され、病害の閾値をまたぎにくくなります(UConn IPM, 2024;Penn State Extension, 2023)。
9-4.夜:種の特性に合わせる
アガベなどCAM型では、夜間に気孔が開くため、過乾(VPDが高すぎる状態)を避けます。夜は0.4〜0.8kPaに収まるよう、就寝前に短時間換気で室内の水蒸気量を調整し、必要なら短時間の除湿で結露を避けつつ中庸帯に整えます(Males & Griffiths, 2017)。
10.用土と環境制御の相乗効果――PHI BLENDという選択肢🪴
10-1.通気と排水が「気流」と手を組む
用土が早期に目詰まりして水が滞ると、いくら部屋の空気を整えても根は十分に呼吸できません。逆に、通気と排水に余裕がある用土では、風で表土が早く乾き、鉢内の酸素供給が安定します。VPDの中庸帯運用と相性が良いのは、乾湿のメリハリをつけやすい配合です(Shamshiri et al., 2018)。
10-2.PHI BLENDの位置づけ
長期に構造が安定する無機素材と、分解の遅い有機素材を組み合わせた選択肢として、PHI BLEND(無機質75%:日向土・パーライト・ゼオライト/有機質25%:ココチップ・ココピート)をご検討ください。風で境界層を薄くし、VPDを中庸に保つ運用と合わせると、鉢内の空気と水の流れが「外の空気」と滑らかにつながります。詳細は製品ページに概要をまとめています。
参考文献
Allen, R. G., Pereira, L. S., Raes, D., & Smith, M. (1998). Crop Evapotranspiration—Guidelines for computing crop water requirements. FAO Irrigation and Drainage Paper 56.(VPDの基礎的計算枠組み)
Both, A. J., et al. (2015). Guidelines for measuring and reporting environmental parameters in plant experiments. Plant Methods, 11: 39.(環境計測の妥当な手順)
Farm Energy / Bartok, J. (2019). Horizontal Air Flow is Best for Greenhouse Air Circulation.(HAFの実務と短絡風回避の基本)
Gilman, I. S., et al. (2023). The CAM lineages of planet Earth. Plants, 12: 3726.(CAM系統の概説と種差の理解)
Grossiord, C., et al. (2020). Plant responses to rising vapor pressure deficit. New Phytologist, 226: 1550–1566.(VPD上昇に対する生理応答の総説)
Horn, J. W., et al. (2014). Phylogenetics and photosynthetic pathway evolution in Euphorbia. Evolution, 68: 3485–3504.(ユーフォルビア属の代謝多様性)
Inoue, T., et al. (2021). Minimizing VPD fluctuations maintains higher stomatal conductance and photosynthesis, resulting in improved growth in lettuce. Frontiers in Plant Science, 12: 646144.(VPD変動抑制の効果)
Kubota, C. (2023). VPDleaf vs. VPDair—Two different ways to determine VPD. e‑GRO Edible Alert, 8(16).(葉温基準のVPDと空気基準の違い)
Males, J., & Griffiths, H. (2017). Stomatal biology of CAM plants. Plant Physiology, 174: 550–560.(CAM植物の気孔生理)
NASA KSC (Kennedy Space Center). Electrostatic Discharge (ESD) Preferred Practice.(静電対策としての室内湿度目安)
OSU Extension. Greenhouse Carbon Dioxide Supplementation. HLA‑6723.(温室のCO₂補給と換気の基礎)
Penn State Extension. (2023). Managing Botrytis or Gray Mold in the Greenhouse.(Botrytisの濡れ時間と湿度の閾値)
Runkle, E. (2016). The Boundary Layer and Its Importance. Greenhouse Product News, 26(3): 34.(境界層と推奨風速の解説)
Shamshiri, R. R., et al. (2018). Optimum temperature, humidity and vapour pressure deficit for greenhouse tomato. International Agrophysics, 32: 287–302.(温室作物のVPDレンジのレビュー)
Tjosvold, S. A. (2018). Maximize photosynthesis with moving air. UC ANR Nursery & Flower Grower Blog.(移動空気と群落内CO₂低下の実測)
UConn IPM. (2024). Botrytis blight facts & humidity management.(結露対策の実務)
UMass Extension. (2019). Botrytis blight of greenhouse crops / cut flowers.(濡れ時間8〜12h+高湿の条件)