LEDのスペックを「植物の言葉」に翻訳する:PPF/PPFD/効率の正しい読み方 💡
本記事では、室内で塊根植物・多肉植物を徒長させず、造形を美しく大きく育てるために、LEDのPPF・PPFD・効率(PPE)をどのような順序で読み解き、DLI(1日光量子量)を設計するのかをご説明します。結論を述べると、室内ではDLIを先に決め、それを満たすPPFD×点灯時間を逆算するのが、徒長を抑える最短ルートになります。アガベやパキポディウムはDLI 18〜25 mol·m⁻²·d⁻¹、ユーフォルビアは15〜20 mol·m⁻²·d⁻¹を起点とし、遠赤光の多用はDLIが十分に満たせてから慎重に行います(Zhen & Bugbee, 2020; Virginia Tech Extension, 2025)。
導入:徒長を止めるには「光量の総和」と「光の信号」を整える 🌵
この章では、徒長の生理学的な背景を概説し、室内栽培で優先すべき設計順序を明らかにします。要するに、まず光量の総和(DLI)を確保し、その上で波長バランス(青・赤・遠赤・UVなどの光の信号)を微調整するという流れをご理解いただきます。
徒長は主として光量不足で起こりやすく、さらに光受容体が感じる「日陰シグナル」(赤/遠赤比の低下など)が重なると、節間が伸びやすくなります。室内では日射の変動が小さい分、設計値がそのまま草姿に表れます。したがって、先にDLIの土台を固め、次に信号の調整を行うと、無理なく安定した形をつくれます(Zhen & Bugbee, 2020)。
PPF/PPFD/PPE:数値の意味と使い分けを整理する 🔎
PPF/PPFD/PPE:数値の意味と使い分けを丁寧に整理します 🔎
この章では、LEDの主要指標であるPPF・PPFD・PPEを、それぞれの定義と実務上の使い方に沿って整理します。同じ電力でも器具によって光の届き方や効率が異なるため、この3つを正しく読み解くことが栽培設計の第一歩となります。
PPF(光合成光子束)
PPF(Photosynthetic Photon Flux)は、器具が1秒あたりに放出する光合成有効光子の総数を表します。単位はμmol/sです。これは「器具の光の出力総量」を示す数値であり、エンジンの排気量のように「どれだけの光を出せるか」を測るものです。
例えば、PPFが250 μmol/sの器具と300 μmol/sの器具を比べると、後者の方が同じ点灯時間でより多くの光を植物に与えることができます。ただし、放出された光がどのように栽培面に届くかは器具の構造や設置条件によって大きく変わるため、PPFだけで判断するのは不十分です。
PPFD(光合成光子束密度)
PPFD(Photosynthetic Photon Flux Density)は、栽培面の1平方メートルに1秒あたりどれだけの光子が到達しているかを表す指標です。単位はμmol·m⁻²·s⁻¹です。植物にとって実際に効いてくるのは、この到達量であり、PPFの光をどの程度効率よく株に届けられたかを示す数値です。
例えば、PPFが同じ250 μmol/sの器具でも、距離を近づければ中央のPPFDは高くなり、離せば低くなります。また、レンズやリフレクターの設計で「スポット型」か「面照射型」かが変わり、均一性にも大きく影響します。したがって、栽培棚での生育を考える際は、PPFDの分布図(マップ)を確認することが非常に重要です。
PPE(光合成光子効率)
PPE(Photosynthetic Photon Efficacy)は、1ジュール(J)の電気エネルギーからどれだけの光合成有効光子を出せるかを示す効率の指標です。単位はμmol/Jです。ここで1 Jはエネルギー量、1 W(ワット)は1 J/s(1秒あたりのジュール)を意味します。したがって、PPEは消費電力に対する変換効率を直接的に示す数値となります。
例えば、どちらも100 WのLED器具でも、
- PPEが2.5 μmol/Jの器具 → 100 W × 2.5 μmol/J = 250 μmol/s(PPF)
- PPEが3.0 μmol/Jの器具 → 100 W × 3.0 μmol/J = 300 μmol/s(PPF)
となり、同じワット数でもPPEが高い器具の方がより多くの光を植物に届けられることがわかります。これは電気代あたりの効率が良いだけでなく、無駄な電力が熱になりにくいため、放熱リスクを減らせる利点もあります。
まとめ
まとめると、PPFは「器具の出力総量」、PPFDは「株に届いた実効値」、PPEは「効率の良し悪し」を示す数値です。選定ではまずPPEで器具の基本性能を比較し、次にPPFDマップで実際の照射環境を確認すると、無駄なく目的に合った光を確保できます。ルーメンやルクスは人間の目に基づいた明るさ指標であり、植物栽培では直接役立たないことも合わせて理解しておくと安心です。
DLIを先に決めてPPFDを逆算します:徒長防止の作法 📈
目標とするDLI(mol·m⁻²·d⁻¹)を先に設定し、点灯時間から必要なPPFDを逆算する具体的方法をご説明します。平均PPFDの考え方や均一性の重要性も合わせて確認します。
目標DLI | 必要PPFD(16 h) | 対象の目安 |
---|---|---|
15 mol | 約260 μmol·m⁻²·s⁻¹ | ユーフォルビアの維持〜緩やかな増量 |
20 mol | 約347 μmol·m⁻²·s⁻¹ | アガベ/パキポディウムの形づくり |
25 mol | 約434 μmol·m⁻²·s⁻¹ | 力強い成長を目指す場合(温度・潅水・CO₂も要調整) |
上表は16時間点灯の代表例です。設計では棚の平均PPFDで満たすことが肝要で、中心だけ高く周辺が低い状態は徒長差の原因になります。器具の高さや角度、複数灯の重ね、側壁反射の利用で均一性を高めると、草姿が安定します(Virginia Tech Extension, 2025)。
波長バランスの要点:青で締め、遠赤は賢く使います 🎯
この章では、青・赤・遠赤・UV-Aといった波長の役割を、徒長抑制と造形の両立という観点から丁寧に解説します。
青光(B)
青光は気孔機能や葉厚と関わり、過不足なく含めることで草姿が締まりやすくなります。青のみでは生長が鈍る場合があるため、実務では白色(R+G+B)主体の器具を選び、スペクトル比率は器具設計に委ねると扱いやすくなります。
遠赤(FR, 700–750 nm)
遠赤は赤光と組み合わせることで光合成の総体を押し上げる側面がある一方、日陰シグナルとして伸長を誘発しやすい光でもあります。DLIが不足している段階で遠赤を多くすると徒長が出やすいため、まずPPFDとDLIの達成を優先し、仕上げの微調整として慎重に用います(Zhen & Bugbee, 2020)。
UV-A
UV-Aは色素形成や抗酸化応答など品質面に寄与し得ますが、量を誤るとストレスになります。基本はPPFD/DLIの土台を整えてから、段階的に追加します(Park et al., 2018)。
属別の設計目安:アガベ/パキポディウム/ユーフォルビア 🧭
代表的な3属について、室内・16時間点灯を想定した現実的な初期レンジと運用の注意点をご説明します。
アガベ(Agave)
強光に適応し、室内ならDLI 18〜25 mol(PPFD 312〜434)を起点にすると、葉幅やロゼットの締まりが変わってまいります。急増光は葉焼けや水分収支の乱れを生むため、1〜2週間かけて距離や調光で漸増します(Niechayev, 2016/2018)。
パキポディウム(Pachypodium)
茎の光合成能力が高く、高めのDLIで造形が引き締まりやすい性質があります。実務的にはアガベに準じてDLI 18〜25 molを起点とし、葉厚・節間・棘の形成を観察しながら上げ下げします。
ユーフォルビア(Euphorbia)
多様な属ですが、観賞用種ではDLI 15〜20 molで草姿が整いやすい傾向があります。高照度に馴化した個体はさらに高いPPFDにも耐えますが、夜間の気孔挙動や潅水リズムとの整合を取り、過湿と高照度の同時発生を避けます(Herrera, 2013)。
器具スペックの読み方:どの数字を優先しますか 🧪
器具を比較検討する際の優先順位を明確にします。最優先はPPF(μmol/s)とPPE(μmol/J)です。これにPPFDマップ(距離・面積条件つき)と調光の有無、IP等級、ドライバの品質を重ねて判断します。「600W相当」やLuxは植物評価に不適切で、μmol系指標の代替にはなりません(ANSI/ASABE S640, 2017)。高CRIの白色は鑑賞性が高い一方、赤に寄せたスペクトルに比べるとPPEがやや低く出る傾向があるため、見た目と成長のバランスはDLI達成を優先して決めると破綻しにくくなります。
指定4製品の一次評価(室内栽培前提)📝
この章では、代表的な4製品を、公開情報と実測共有で確認しやすいPPFD・均一性・運用のしやすさの観点から整理します。数値は測定条件により変動しますので、最終的にはご自身の棚での実測確認をおすすめいたします。
1) PANEL X 100W(BRIM)
Samsung 301H採用表記の100 W級パネルです。共有されている実測では20 cm・中央PPFD ~1100 μmol、周辺~300 μmolとされ、中心強度が高い一方で面としても扱いやすい印象です。60×60 cm棚で平均PPFD 300〜450を狙いやすく、16 hでDLI 20前後の設計が取りやすいです。製品リンク
2) HaruDesign HASU38 spec9 6K
Bridgelux BXCD+レンズのスポット型で、複数の実測共有では40 cmでPPFD ~1100〜1200が報告されています。単株の徒長抑制に強力ですが、面均一性はパネルに劣るため、器具距離でPPFD 300〜500(16 h)に落として安定運用すると扱いやすくなります。製品リンク
3) GREENSINDOOR LED植物育成ライト 600W相当
225LEDの薄型パネルですが、公開情報はLux中心で、PPF/PPFD/PPEの定量が乏しい印象です。植物評価はμmol系指標が前提のため、導入前にPPF値とPPFDマップの開示をご確認ください。開示が得られない場合は、DLI設計が不確実になるため見送るのが無難です。製品リンク
4) BARREL NEO AMATERAS 20W(E26)
4) BARREL NEO AMATERAS 20W(E26)
メーカー公称で40 cm・PPFD 406 μmol、CRI Ra96が特長です。単点では16 hでDLI ≈ 23–24 molに相当し、近接スポット兼鑑賞用途に向きます。面積展開は複数灯で設計します。製品リンク
CRI(Color Rendering Index、演色評価数)とは、その光で照らしたときに物の色が自然光にどれだけ忠実に見えるかを示す指標です。数値は0〜100で表され、100に近いほど自然に見えます。園芸用LEDでCRIが高いことは植物の成長速度には直接関係しませんが、葉や茎の色合いを人の目に自然に楽しみたいときには大きな利点となります。NEO AMATERASはRa96という非常に高いCRIを持ち、鑑賞性に優れた照明環境をつくれる点が他製品との差別化ポイントです。
設計手順:棚のPPFDを「狙って当てる」ための流れ 🛠️
この章では、実際にご自宅の棚へ落とし込むための段取りを、測定と調整の視点からご説明します。
ステップ1:目標DLIを決めます
アガベ/パキポディウムは18〜25 mol、ユーフォルビアは15〜20 molを起点にします。温度・潅水・CO₂が整うほど高DLIのリターンは大きくなります。
ステップ2:PPFDを逆算して面で合わせます
16時間点灯なら前掲表のPPFDを棚の平均で満たします。中心だけ突出しないよう、器具距離や角度、複数灯の重ね、側壁反射を調整します。相対比較にはスマホアプリも使えますが、最終確認は量子センサーを推奨します。
ステップ3:波長は「締め」と「伸ばし」のバランスを取ります
白色主体で青を含む器具は扱いやすく、遠赤・UV-AはDLIが満たせてから慎重に追加します。DLI不足の環境で遠赤を多用すると徒長を助長しますので、まずPPFD(=光量)を優先的に引き上げます(Zhen & Bugbee, 2020)。
光と根〜用土の協調設計(最後に)🌱
この章では、光設計と根域環境の連携について触れます。高いDLIは蒸散を増やし、根域に十分な酸素供給と、乾きすぎないが停滞もしない水分リズムを要求します。粒度と多孔性のバランスが取れた用土を選ぶことで、強い光でも葉焼けや根傷みのリスクを抑えられます。
PHI BLENDについて
PHI BLENDは無機質75%・有機質25%という構成で、無機質は日向土・パーライト・ゼオライト、有機質はココチップ・ココピートを採用しています。高いDLI環境で求められる通気性と保水性の両立を意図しており、徒長を抑えつつ堅い作りを狙う室内栽培と相性がよい配合です。詳しくはPHI BLEND 製品ページをご覧ください。
参考文献
ANSI/ASABE S640 (2017). Quantities and Units of Electromagnetic Radiation for Plants.
DesignLights Consortium (2024–2025). Horticultural Lighting Technical Requirements.
Zhen, S., & Bugbee, B. (2020). Substituting far-red for traditionally defined photosynthetic photons. Frontiers in Plant Science.
Zhen, S. (2021). Why far-red photons should be included in the definition of photosynthetic photons. Frontiers in Plant Science.
Virginia Tech Extension (2025). Calculating and Using Daily Light Integral (DLI).
Herrera, A. (2013). Crassulacean acid metabolism-cycling in Euphorbia milii. AoB Plants.
Niechayev, N. A. (2016/2018). Environmental productivity and light response of Agave americana.
Park, Y. et al. (2018). Spectral effects of LEDs on plant growth. Horticultural Research.
Apogee Instruments (2021). The new 400–750 nm ePAR range explained.