LED時代の室内栽培で起こる「徒長」と「葉焼け」
室内で塊根植物や多肉植物を育てていると、LEDライトの距離を数センチ変えただけで、株の表情がガラッと変わることがあります。葉がひょろっと伸びて締まりがなくなる「徒長(とちょう)」と、白く抜けたり褐色に焦げる「葉焼け」は、その代表的なトラブルです。どちらも原因は光の「強さ」と「当て方」のバランスにあり、特にLEDの出力と植物との距離が大きく関わっています。
結論から先にかいつまんで言うと、🌱徒長は「光量とDLI(1日の総光量)の不足」、🔥葉焼けは「光量過多と急激な環境変化」が主因です。家庭用20〜100WクラスのLEDでは、概ね10〜15cmの超至近距離〜2m離れた部屋の隅まで光量は数十倍単位で変化します(Olle & Viršile, 2013)。アガベやパキポディウム、ユーフォルビアなどの「日向好き」の多肉は、PPFD(光合成有効光量子束密度)が100µmol/m²/sを下回ると徒長リスクが高まり(Poorter et al., 2019)、逆に700〜1200µmol/m²/s以上の強光に未順化の状態でさらされると葉焼けリスクが急上昇します(Yamori, 2016)。本記事では、こうした科学的な指標をベースに、家庭で実践しやすい「LEDの距離と出力の決め方」を整理していきます。
LEDの「強さ」と「距離」をどう考えるか 💡
まず押さえておきたいのは、私たちが「明るい」「暗い」と感じる感覚と、植物が受け取っている光合成に使える光の量は必ずしも一致しないという点です。植物が利用する光の強さは、一般にPPFD(Photosynthetic Photon Flux Density)という指標で表され、これは「1平方メートルあたり1秒間に何個の光子が当たっているか」を示す単位(µmol/m²/s)です(McCree, 1972)。一方、私たちがよく見るルクス(lx)は人間の目の感度に合わせた単位で、白色LEDであれば「おおよそ100ルクス ≒ 1µmol/m²/s」と考えると目安になります(Olle & Viršile, 2013)。
もう一つ重要なのがDLI(Daily Light Integral)🌞です。DLIは1日あたりの総光量を表す指標で、「PPFD × 照射時間」で求められます。例えば平均PPFDが200µmol/m²/sの光を12時間当てると、DLIは約8.6mol/m²/dayです(Faust, 2003)。多くの強光性多肉植物では、DLIが15〜20mol/m²/day程度になると生長が安定し、それ以上で光合成が頭打ちになると報告されています(Nobel, 1988)。つまり、室内栽培では「どれくらい近くから(PPFD)」「何時間当てて(時間)」「1日トータルでどれくらいの光量(DLI)」を稼いでいるかが、徒長と葉焼けの分かれ目になります。
距離が4倍になると光は1/16に 📉
LEDの光は、遠ざかるにつれて急速に弱まります。理想的な点光源に近い条件では、光の強さは距離の2乗に反比例し、距離が2倍になれば光は約1/4、4倍になれば1/16まで低下します(Jones, 2014)。例えば、ある白色LEDが植物から10cmの位置で50,000ルクス(おおよそ500µmol/m²/s)の光を与えていたとします。同じLEDを40cmまで離すと、理論上は約3,000〜4,000ルクス前後(30〜40µmol/m²/s)にまで落ちてしまい、さらに1m、2mと離れると「人が見て明るい部屋」でも、植物にとってはほぼ暗闇に近い光量になってしまいます(Olle & Viršile, 2013)。
実測データでも、南向き窓辺で直射日光が入る場所の照度はピークで10,000ルクス前後、PPFDにして100〜200µmol/m²/s程度であることが多く(Hernández & Kubota, 2015)、窓辺から1〜2m離れると1,000ルクス以下(10µmol/m²/s前後)になるケースが報告されています(Poorter et al., 2019)。この値は、アガベやパキポディウムが好む光量から見ると「慢性的な光不足ゾーン」であり、徒長を招きやすいレベルです。
20〜100Wクラス家庭用LEDの現実的な距離目安
では、具体的にどのくらいの距離でどの程度の光が出ていると考えればよいのでしょうか。もちろん製品やレンズ角度、反射板の有無によって変わりますが、一般的な白色LEDスポットライトや植物育成LED(20〜100Wクラス)では、以下のようなイメージになります(Olle & Viršile, 2013; Hernández & Kubota, 2015)。
| LED出力の目安 | 距離の目安 | おおよその照度イメージ |
|---|---|---|
| 20〜30Wクラス | 10〜15cm | 5,000〜10,000ルクス(50〜100µmol/m²/s) |
| 50〜60Wクラス | 20〜30cm | 1万〜2万ルクス(100〜200µmol/m²/s) |
| 80〜100Wクラス | 30〜50cm | 2万〜4万ルクス(200〜400µmol/m²/s) |
実際にはメーカーの配光特性や設置環境により変動しますが、🌈「20Wなら10cm前後」「50Wなら20〜30cm」「100Wなら30〜50cm」が、徒長を避けつつ葉焼けリスクを抑えやすい距離帯の一つの目安になります。特に「室内LEDメイン」で育てる場合、LEDを1m以上離してしまうとPPFDが一気に落ち、日向性の多肉ではまず光量が足りません。
光不足ゾーンで起こる徒長のメカニズム 🌱
徒長は見た目の問題に留まらず、植物の体づくりにも悪影響を与えます。茎や葉柄が細長く伸びると、自重を支えにくくなり、風や水やりで倒れやすくなります。また葉の厚みが減り、根の張りも弱くなりがちです。なぜ光不足でこのような変化が起こるのでしょうか。
植物は、周囲の光環境を光受容体(フォトレセプター)で常にモニタリングしています。その一つであるフィトクロムは、赤色光と遠赤色光の比率(R:FR比)を感じ取り、「自分は日向にいるのか、それとも他の植物の陰にいるのか」を判断します(Smith, 2000)。上からの直射に比べて、他の葉を通ってきた光や室内の天井反射光は遠赤成分が多くなるため、フィトクロムはそれを「日陰」と解釈し、オーキシンやジベレリンといったホルモン制御を通じて茎や葉柄の伸長を促すことが知られています(Franklin, 2008)。これが日陰回避応答であり、結果として私たちが「徒長」と呼んでいる姿になります。
加えて、絶対的な光量(PPFD・DLI)が不足すると、植物は十分な炭水化物を合成できません。葉を厚くしたり、根を深く張ったりするには多くのエネルギーが必要ですが、光不足環境ではそれだけの余裕がないため、どうしても「ひとまず光を取り込むために上へ上へ伸びる」方向にリソースを振りやすくなると考えられています(Poorter et al., 2019)。
徒長が起こりやすい光量のしきい値
では、どのあたりから「徒長ゾーン」なのでしょうか。もちろん種や個体によって違いはありますが、観葉植物や多肉植物を対象とした実験では、以下のようなおおよその傾向が示されています(Poorter et al., 2019; Faust, 2003)。
一般的な観葉植物では、PPFDが100µmol/m²/s(約1万ルクス)を下回ると節間が明らかに伸び始め、200µmol/m²/s前後からようやくコンパクトな株姿を保てることが多いとされています(Faust, 2003)。一方、サボテンやアガベなど強光性の多肉植物では、200〜400µmol/m²/s(2万〜4万ルクス)程度を与えた方が健全な生長が得られ、100µmol/m²/s程度では「とりあえず生きているが形は崩れやすい」というレベルにとどまることが多いです(Nobel, 1988)。
特にアガベやパキポディウム、ユーフォルビアの成株では、屋外基準ではPPFD400〜800µmol/m²/sが理想域とされることが多く(Nobel, 1988; Hernández & Kubota, 2015)、室内LED栽培でそこまで再現するのはハードルが高くなります。そのため実務的には、まず最低ラインとして100〜200µmol/m²/s(1万〜2万ルクス)を確保し、徒長サインが出るようなら距離を詰める・照射時間を延ばすというステップで調整していくのが現実的です。
スペクトルと徒長:青い光は株を「締める」🔵
もう一つ見落とされがちなのが、LEDの波長バランス(スペクトル)です。同じPPFDでも、青色光と赤色光の比率によって株姿が変わることが知られています。多くの研究で、青色光の割合が増えると葉が厚くなり、節間が詰まり、全体がコンパクトに締まりやすいことが報告されています(Hernández & Kubota, 2015; Hogewoning et al., 2010)。青色光はクリプトクロムやフォトトロピンという受容体を刺激し、細胞の過度な伸長を抑える方向に働きます(Lin, 2000)。
逆に、赤色〜遠赤色に偏った光環境では、フィトクロムが「日陰」と判断しやすくなるため、同じ光量でも徒長しやすくなる傾向があります(Franklin, 2008)。極端な電球色LEDや、演色性が低く遠赤成分の多い照明を単独で使うと、数字上はそこそこのルクスを稼いでいても、株姿だけを見ると「なんだか締まらない」という状況になりがちです。
観葉植物を対象とした試験では、白色LEDに青色成分を全体の10〜20%程度含めることで、伸びすぎを抑えつつ光合成も維持できるバランスが得られたと報告されています(Hernández & Kubota, 2015)。アガベやパキポディウム、ユーフォルビアのような多肉植物でも、基本的には「青もそこそこ入った白色LED」を選ぶと失敗が少なくなります。演色評価数(Ra)が高いフルスペクトルタイプであれば、人の目にも植物にも優しい光になりやすく、株姿のチェックもしやすい点でメリットがあります。
徒長サインを見逃さないための観察ポイント 👀
数値の話だけではイメージしにくいので、実際に株を見ながら調整するためのチェックポイントも整理しておきます。アガベの場合、本来はロゼット状に葉が詰まって地面と水平〜やや斜めに展開しますが、光量が足りないと葉が上に向かって持ち上がり、葉と葉の間に隙間ができるようになります。葉も薄く柔らかくなり、色が淡くなるのが典型的な徒長サインです(Nobel, 1988)。
パキポディウムでは、茎の頂部近くの葉が細長くなって垂れ気味になり、全体のシルエットが「ろうそく」のように細くなっていきます。ユーフォルビアの多肉種では、球状の種でも楕円に伸びてしまう、柱状種なら節間がやけに長くなるといった形で現れます。いずれも、「最近なんとなく格好が崩れてきた」「新芽がやけに細い」と感じたら、光量不足を疑ってよいタイミングです。
この段階であれば、LEDを5〜10cmだけ近づける、あるいは照射時間を2〜4時間延ばすだけでも改善が見込めます。逆に放置すると、根の張りが弱いまま背だけ高くなり、植え替え時などに根鉢が崩れやすくなることもあるため、早めの軌道修正が大切です。
強光ゾーンで起こる葉焼けのメカニズム 🔥
次に、LEDを近づけすぎたときの危険性である「葉焼け」について整理します。葉焼けは、植物が処理できる光エネルギーを超えてしまったときに起こる光ストレス障害で、日光でも人工光でも発生します。特に室内LEDの場合、発光素子が近距離で一点集中しやすく、見た目以上の光子密度(PPFD)が葉に届くため注意が必要です。
葉焼けは、光の当たり方や葉の温度上昇、乾燥ストレスなどが複合して発生します。中でも重要なのは「光阻害(Photoinhibition)」と呼ばれる現象で、これは余った光エネルギーが活性酸素を発生させ、葉緑体の光化学系II(PSII)を破壊してしまうプロセスです(Yamori, 2016)。結果として、まずは葉の色が少しずつ褪せる👉白っぽく抜ける👉褐色に焦げる……と進んでいきます。
葉焼けの「前兆」を知ることが最大の予防策 👀🔥
葉焼けは突然黒く焦げるわけではありません。以下のような段階を経て進行するため、早期に気づけば軌道修正できます。
- 🌕 葉色がほんのり薄くなる(光ストレスの初期段階)
- 🌤️ 白っぽく抜ける(クロロフィル破壊)
- 🔥 褐色・赤褐色の斑点や縁枯れが出る(細胞死)
- 🟤 完全に黒化・乾燥しパリパリになる(回復不能)
最初の「ほんのり色抜け」段階でLED距離を5〜10cm離す、照射時間を1〜3時間減らすなどの調整を行えば、重度化を防ぎやすくなります。
未順化の室内株は「強光に弱い」構造になっている
屋外の強光で育った多肉植物は、表皮が厚く、クチクラ層や色素(アントシアニン)も発達しており、非常に強い光にも耐えます。しかし、室内LEDで育った株はこの防御システムが十分に整っていません。その状態でいきなり強光に当てると、屋外性のアガベでさえ簡単に葉焼けしてしまいます。
「LEDでたくさん光を当てているのに、屋外に出したら焼けてしまった」という経験は、まさに光スペクトルや日射の強さ・熱の違いに対する適応が不足している証拠です。室内育ちの株は、外の光に慣れるまでに少なくとも1〜2週間を要します。
葉焼けを引き起こす環境要因(LED環境でも要注意)
葉焼けは光量だけが原因ではありません。以下の要因が重なると、LED下でも焼けが発生します。
- 💨 無風・弱風環境:葉面温度が上昇し熱ストレスに弱くなる
- 🌡️ 周囲温度の上昇:LED照射部の局所高温でPSIIがダメージを受けやすい
- 💧 水不足:蒸散が弱まり、葉内部の熱が逃げにくくなる
- ⚡ 急激な光変化:前日は低光量→翌日に強光、のような環境変化は特に危険
どれもLED照明の距離調整だけでは避けられないため、ライトと併せて小型ファンの運用や水やりタイミングの見直しも大切です。
アガベ・パキポディウム・ユーフォルビアの光量帯とLED距離の実務イメージ 🌵💡
ここでは代表的な三属について、研究データと栽培実務をもとに、LEDとの距離の目安を整理します。
| 属 | 推奨PPFD | 距離の目安(80〜100W LED) |
|---|---|---|
| アガベ | 500〜800µmol/m²/s | 20〜40cm(強光耐性が高いが未順化は要注意) |
| パキポディウム | 400〜700µmol/m²/s | 25〜45cm(春の慣光は特に丁寧に) |
| ユーフォルビア(多肉型) | 400〜600µmol/m²/s | 30〜50cm(種類によりやや弱光寄り) |
重要なのは、これらの数字は「屋外に近づける理想値」であり、室内LEDでは達成が難しいケースも多い点です。そこで実務では、まず100〜200µmol/m²/s(1万〜2万ルクス)を最低ラインとし、徒長サインが出たら距離を詰め、逆に焼けの前兆が出たら距離を離す——という調整を繰り返すのが現実的で安全なアプローチになります。
距離調整の実務フロー 🔧
LEDと植物の距離を決める際は、次のような段階的調整が役立ちます。
- 1️⃣ 初期設定:出力に応じて「20Wなら10〜15cm」「50Wなら20〜30cm」「100Wなら30〜50cm」から開始
- 2️⃣ 観察:1週間ごとに葉色・姿勢・節間の変化を観察
- 3️⃣ 徒長サインがあれば距離を5〜10cm詰める
- 4️⃣ 焼けサイン(色抜け・縁の褐変)があれば距離を5〜10cm離す
- 5️⃣ 照射時間でDLIを補完:光量が不足する場合は照射時間を2〜4時間延ばす
このように「距離」と「時間」をセットで調整することで、過不足のない光環境に近づきます。
LEDと用土の関係:光量が変われば根の要求も変わる 🌱🪴
強光下では光合成によって多くの炭水化物が作られ、生長速度も上がります。そのため根の呼吸量が増え、より通気性の高い用土が求められるようになります。逆に光量が少なければ葉と根の活動が小さくなり、必要な酸素量も減るため、やや保水性のある環境でも問題が起きづらくなります。
この点で、無機質75%・有機質25%のPHI BLENDは、LED管理で起こりやすい「強光→高成長」「弱光→緩成長」のどちらにも対応しやすい構造(速乾性と通気性のバランス)を持っています。特に根腐れリスクが高まる初夏〜夏のLED育成では、こうした構造安定性の高い用土のメリットが生きます。
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参考文献
- Faust, J. E. (2003). Light and plant growth.
- Franklin, K. A. (2008). Shade avoidance.
- Hernández, R., & Kubota, C. (2015). LEDs and plant morphology.
- Hogewoning, S. W. et al. (2010). Blue light effects on morphology.
- Jones, T. (2014). Inverse square law for horticultural lighting.
- Lin, C. (2000). Blue light receptors.
- McCree, K. J. (1972). Quantum yield of photosynthesis.
- Nobel, P. S. (1988). Environmental biology of agaves & cacti.
- Olle, M., & Viršile, A. (2013). LED horticultural lighting review.
- Poorter, H. et al. (2019). Light intensity and plant morphology.
- Yamori, W. (2016). Photoinhibition in plants.
LEDの距離と出力は、徒長と葉焼けの両方に密接に関わります。数字を指標にしつつ、株の微妙な変化を観察しながら、環境を微調整していきましょう。正しい光管理は、塊根植物・多肉植物を「綺麗に大きく育てる」ための最も確実な一歩になります。
