アガベ チタノタの育て方 ⓪ チタノタとオテロイとFO-076は同じアガベ?


🌱 アガベ・チタノタ、アガベ・オテロイ、そしてFO-076。これらはしばしば同一視されますが、学術的には明確に区別される存在です。一方で、園芸流通の世界では「チタノタ」という名前が広く使われ、その中にFO-076由来のオテロイ系統や、さらにそこから派生した多くのネームド株が混在してきました。本記事では、命名と流通の歴史を整理し、なぜ混乱が起きたのか、そしてシーザーや白鯨などのネームド株がどこに位置づけられるのかを、科学的・体系的に解説します。

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📘何が本当のチタノタなのか

アガベ・チタノタという名前を検索すると、鋭い鋸歯を持つ個体、白粉を帯びた個体、極端に丸く締まった個体など、実に多様な姿が並びます。そこに「FO-076」や「姫厳竜」「白鯨」といった名前が加わり、何が本当のチタノタなのか分からないと感じた方も多いのではないでしょうか。

この混乱は、単なる呼び名の問題ではありません。🔬 分類学(タクソノミー)と園芸流通が異なるルールで動いてきた結果として生じた、構造的な問題です。ここを整理しないまま育成の話に入ると、以降の記事全体で前提が揺らいでしまいます。そのため本シリーズでは、本稿を第0回(前提編)として位置づけ、まず名前と系譜の整理から始めます。

🧬 アガベ・チタノタとは何か

アガベ・チタノタ(Agave titanota)は、1982年にアガベ研究の権威であるハワード・スコット・ジェントリーによって記載された種です(Gentry, 1982)。メキシコ・オアハカ州からプエブラ州にかけての石灰岩質の断崖地帯に自生し、白粉を帯びた青白い葉と不規則な鋸歯を特徴とします。

ここで重要なのは、「チタノタ」という名前が学名としては一つの種を指すという点です。📚 学名は、原記載・タイプ標本・分布・形態などを根拠に定義され、流行や見た目の好みで変わるものではありません

🧾 FO-076とは何だったのか

FO-076とは学名ではありません。これは1984年にメキシコの植物コレクター、フェリペ・オテロによって採集されたアガベ種子に付けられたフィールドナンバーです。FOは採集者名、076は採集番号を意味します。

このFO-076由来の実生株は、当初は学名未確定のまま一部のコレクター間で流通していました。その後、鋸歯の迫力や葉の厚みに注目が集まり、2000年代に入って人気が爆発します。その過程で、⚠️ 誰かがFO-076を「チタノタ」と紹介してしまったことが、混乱の始まりでした。

📖 アガベ・オテロイの誕生

FO-076の正体は、2019年にようやく明らかになります。現地調査と形態比較を重ねた結果、FO-076はチタノタとは異なる独立種であるとして、アガベ・オテロイ(Agave oteroi)として正式に記載されました(Starr & Davis, 2019)。

オテロイは、チタノタとは異なる流域・地質に分布し、より濃緑色で、幅広く肉厚な葉を持つ傾向があります。🌍 両者は近縁ではあるものの、自然界では混生せず、分類学的にも区別されます。

❓ なぜここまで混乱したのか

この問題の本質は、学名と流通名が異なる役割を持つことにあります。学名は分類のための言語ですが、流通名は「売買・識別・ブランド化」のための言語です。

チタノタは元来流通量が少なく、現地採集も困難でした。一方、FO-076由来のオテロイは実生増殖が比較的容易で、見た目も派手だったため、「チタノタ」という名前の下で一気に広まりました。その結果、チタノタ=鋸歯がすごいアガベというイメージが先行し、学術的な区別が置き去りにされたのです。

🏷 ネームド株とは何か

ここでさらに混乱を深めているのが、ネームド株の存在です。🌟 シーザー、白鯨、農大No.1、ハデス、South Africa Diamond、魔丸などの名前を耳にしたことがある方も多いでしょう。

これらは学名でも正式な品種名でもありません。特定の生産者や流通経路で選抜された個体、あるいはそのクローンや実生群に付けられた通称・商品名です。

🧩 FO-076とネームド株の関係

重要な点として、多くのネームド株はFO-076由来、すなわちアガベ・オテロイ系統をベースにしています。FO-076は遺伝的な幅があり、実生を重ねることで多様な形質が現れます。その中から、特に形が優れた個体が選抜され、名前を与えられてきました。

つまり、FO-076は系統の起点であり、ネームド株はその中の一つの表現型に過ぎません。一方で、同じ名前が付いていても、実生由来かクローン由来かで中身が異なる場合もあります。

🧭 ネームド株と学名は別の軸である

ここで整理しておくべきなのは、学名・フィールドナンバー・ネームド株は別の次元の情報だという点です。

区分意味
学名分類学上の種名Agave titanota / Agave oteroi
フィールドナンバー採集由来を示す識別子FO-076
ネームド株流通・選抜上の呼称白鯨、シーザー など

🧠 このシリーズでの整理方針

本シリーズでは、以下の整理を前提とします。

まず、学名としてのチタノタとオテロイは区別します。次に、園芸流通で「チタノタ」と呼ばれてきた株群の多くがオテロイ系(FO-076由来)である事実を踏まえます。そして、ネームド株は学名とは切り離して解説し、その遺伝的背景や流通上の意味を整理します。

この前提を共有したうえで、次回以降は実生・発根・締め方・TC株といった育成の話に進みます。🔄 そうすることで、「どの系統の話をしているのか」が常に明確になり、育成ノウハウの再現性も高まります。

🌱 おわりに

名前の混乱は、アガベという植物の奥深さと人気の裏返しでもあります。しかし、整理された視点を持てば、自分が育てている株がどの文脈に属するのかを理解できるようになります。

次回からは、この前提を踏まえたうえで、実際の育成プロセスに踏み込んでいきます。

📚 参考文献

  • Gentry, H. S. (1982). Agaves of Continental North America.
  • Starr, G. D., & Davis, T. J. (2019). Agave oteroi, a new species from Oaxaca. Cactus and Succulent Journal.

🪴 本シリーズで扱う育成環境は、日本の屋内・ベランダ栽培を前提としています。用土設計については、無機質主体で通気性と排水性を重視した配合が有効であり、その一例としてPHI BLENDのような設計思想が参考になります。

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