🌱 培養土に含まれる「微塵」とは何か――やさしい出発点
塊根植物や多肉植物を鉢で綺麗に大きく育てるためには、培養土の「粒の大きさ」を適切に設計する必要があります。なかでも見逃されやすいのが微塵(みじん)です。微塵とは、ふるいにかけると下に落ちるとても細かい粒のことで、本稿では1ミリ未満を広い意味での微塵、0.25ミリ未満を極微塵と呼びます(Altland & Owen, 2008)。この記事では、微塵が鉢の中の水のたまり方と空気の通り道にどのように影響し、その結果として根の健康や病気の出やすさがどう変わるのかを、一次情報にもとづいて丁寧に説明します。後半では、粒が細かいにもかかわらず微塵と同じ悪影響を生みにくい素材、ココピートの特性と使い方も科学的に整理します。
📏 微塵の定義と測り方――まず現状を「見える化」する
実務では1.0ミリ・0.5ミリ・0.25ミリのふるいを使い分け、ふるい下に落ちた割合で微塵量を把握します(Altland & Owen, 2008)。評価で重視すべき指標は五つです。第一に、潅水後に自由排水させた後に残る空気のすき間の割合(空気間隙率)です。第二に、同じ条件で鉢に保持される水の割合(容器水容量)です。第三に、空気と水を合わせた全体の空隙の量(全孔隙率)です。第四に、飽和状態での水の抜けやすさ(飽和時の水の通りやすさ)です。第五に、根が呼吸に使う酸素がどれだけ通り抜けられるか(ガスの通りやすさ)です(Bilderback et al., 2013; Milks et al., 1989)。
💧🌬️ 微塵が鉢の中で起こす変化――水と空気の綱引きを正しく理解する
⚖️ 微塵が増えると水保持は増えるが、空気の通り道は必ず減る
微塵が増えると、粒が小さいため毛細管の力が強く働き、水分が保持されやすくなります。その一方で、粒と粒の間にある空気の通り道が狭くなり、根が呼吸に使える空気が減ります。この傾向は、パインバークなどの容器培地で繰り返し確認されています(Altland et al., 2018; Fields et al., 2022)。多くの研究は、空気のすき間が10%を下回ると根の伸長が著しく抑えられることを示しています(Bilderback et al., 2013; Grable & Siemer, 1968)。重要な点は、保水が十分でも通気が不足すると根は正常に成長できないという事実です。
📐 鉢底の滞留水層(PWT)は粒の細かさと鉢の高さで変わる
潅水後の鉢では、重力に逆らって水が保持されるため、鉢底に滞留水層(PWT)が必ず生じます。微塵が多い配合ほど毛細管の力が強くなるため、PWTは厚くなります。さらに、鉢が低いほど同じ配合でもPWTの占める割合が大きくなり、鉢全体が長時間しめった状態になりがちです(Altland & Owen, 2008; e-GRO, 2024)。浅い鉢で微塵が多い配合を使うと、潅水のたびに根の周りの酸素が不足しやすくなるため、浅鉢では微塵をできるだけ減らす設計が安全です。
🚫💧 微塵の移動は「目詰まり」を起こし、水の抜けを悪化させる
潅水を繰り返すと、微塵は水と一緒に移動して鉢底の穴や大きい空間に集まり、目詰まりを起こします。目詰まりが進むと飽和時の水の通りやすさが低下し、排水にかかる時間が長くなります。容器培地の研究でも、粒度が細かくなるほど排水の遅延が顕著になることが示されています(Altland et al., 2018)。この状態が続くと、鉢底に水が常に残り、根の周囲で通気の不足が慢性化します。
🫁 空気不足が根と地上部にもたらす結果――「見えない酸欠」を未然に防ぐ
根は常に酸素を使って呼吸を行います。鉢の中で酸素が通りにくくなると、根は短時間で機能を落とします。土壌物理の研究は、酸素の通りやすさが一定の閾値を下回ると根の伸長が止まりやすくなることを明確に示しています(Grable & Siemer, 1968)。また、低酸素の環境では、根でエチレンの前駆体が増えて地上部の伸びが抑えられたり、カルシウムの取り込みが低下したりすることが報告されています(Bradford & Yang, 1980; Atwell, 1990)。塊根・多肉植物は体内に水を貯蔵して乾燥に耐えますが、細い吸収根の呼吸は他の植物と同じです。したがって、通気が不足した鉢では新根の更新が滞り、塊根の肥大や株の締まりが崩れるリスクが高くなります。
🦠 微生物と病気への影響――湿りすぎの鉢は病原菌の温床になりやすい
水が多く酸素が少ない鉢では、PythiumやPhytophthoraのように水を好む病原菌が増えやすくなります。低酸素条件でこれらの感染率が高くなることは、森林樹木や園芸作物の研究で繰り返し示されています(Jacobs et al., 1997)。一方で、有益な菌根菌は菌糸が細孔構造を支えることで、植物が使える水分域での水の動きを改善する可能性があります(Bitterlich et al., 2018)。ただし、菌根菌の効果は素材や管理条件に左右されるため、万能な対策ではありません。根本対策はやはり通気を確保する設計です。
🎯 微塵をあえて使う局面――例外を「短期間・目的限定」で活かす
微塵は基本的に通気や排水を悪化させますが、播種や挿し木の初期のように均一な湿り気が必要な局面では利点があります。細かい粒は種子や挿し穂とよく密着し、乾きすぎを防ぎます(GrowerTalks, 2017; SunGro, 2017)。ただし、発根が進んだ後は通気の良い粗めの配合へ速やかに切り替える必要があります。また、真夏の高温乾燥で用土が短時間で乾く環境では、少量の微塵が完全乾燥までの時間をわずかに延ばす場合がありますが、その分だけ通気不足のリスクが増します。潅水頻度の調整や自動潅水の導入で対応する方が安全です。
🥥 「ココピート=微塵」ではない――細かいのに悪影響が出にくい理由
ココピートは粒が細かい素材ですが、無機の微塵(赤玉の崩れ粉・軽石の粉など)と同じ悪影響を必ずしも生みません。理由は素材の構造と挙動の違いにあります。
🧽💧 粒の内部がスポンジ状で、空気の道を必要以上にふさぎにくい
ココピートの粒は内部に多くの微細な穴をもち、粒自体が水を抱え込みます。粒同士の間にある大きめの空間(空気の通り道)を過度にふさぎにくいため、同じ「細かい粒」でも無機微塵ほど急速に通気が悪化しにくい傾向があります(Abad et al., 2002; Noguera et al., 2000)。また、乾燥しても再び水を吸って膨らみやすいため、潅水を繰り返しても粒が崩れて超微粉に流亡しにくい点も利点です。
🧵 繊維が骨組みとなり、配合によっては「空気の通り道」を保てる
多くのココピート製品は、ダスト(粉)だけでなく繊維(ファイバー)やチップを含みます。繊維は骨組みとして働き、適切な配合では空気の通り道(空隙)を維持しやすくなります(Evans et al., 1996; Evans & Stamps, 1996)。これは、球形に近い無機微塵が物理的に孔をふさいでしまうのとはメカニズムが異なります。
📈💧 軽くて扱いやすく、保水と通気のバランスを設計しやすい
ココピートはかさ密度が低い素材で、適切に配合すると保持できる水と空気の通り道の両方を確保しやすいことが知られています(Abad et al., 2002; SunGro, 2017)。そのため、同じ細粒でも、無機微塵を増やした場合に比べるとガスの通りにくさの悪化が緩やかになることがあります。
⚠️ 例外に注意――粉が多すぎる・強く詰める・品質が低い場合は悪化する
ただし、ココピートであっても超微粉が過剰だったり、鉢に強く押し固めて充填したりすると、やはり通気は悪化し、排水も遅くなります(Evans et al., 1996)。低品質の原料では可溶性塩類(ナトリウム・カリウムなど)が高いことがあり、洗浄やカルシウムでの緩衝処理が不十分だと肥料バランスを乱す原因になります(Abad et al., 2002)。したがって、ココピートはグレード選び(ダスト/チップ/ファイバーの割合)と充填密度の管理を前提に、設計して使う素材だと理解してください。
🧰 実務の指針――ふるい、鉢の高さ、日々のチェックで微塵を管理する
🔍 ふるいで現状を把握する
乾いた培養土を1.0ミリと0.25ミリ(または0.5ミリ)のふるいにかけ、1ミリ未満と0.25ミリ未満の割合を測定します。塊根・多肉の本鉢では、1ミリ未満を5〜10%以下、0.25ミリ未満を可能な限りゼロに近くに抑えると安全です(Bilderback et al., 2013)。播種や挿し木の初期は例外として短期間だけ許容し、発根後は粗めの配合へ切り替えます。
📏 鉢の高さに合わせて粒度を決める
鉢の高さ | 粒の大きさの軸 | 微塵の目安 | ねらいと注意点 |
---|---|---|---|
浅い鉢(5〜10cm) | 3〜6mm主体の粗め | 5%未満 | PWTが相対的に厚くなるため、微塵は極力減らす(Altland & Owen, 2008) |
ふつうの鉢(15〜20cm) | 2〜5mm主体+微塵は少量 | 5〜10% | 水持ちと通気の両立を狙う(Bilderback et al., 2013) |
深い鉢(25cm以上) | 下層を粗く、上層をやや細かくする層状 | 15%未満(20%超は避ける) | 全層の過湿を避けつつ上層の乾きすぎも防ぐ(Criscione et al., 2025) |
これらの数値は、容器培地の研究で示された「安全帯」をもとにした目安です(Altland et al., 2018; Bilderback et al., 2013)。素材の種類や鉢への詰め方で最適値は変わるため、ふるいによる測定と日々の観察で微調整してください。
🧱 素材の選び方と劣化の抑え方
長期栽培では、粒が崩れにくい素材ほど微塵の増加を抑えられます。火山礫や焼成系、硬質のパーライトやゼオライトは粒度が安定しやすい一方、軟質の赤玉や未熟な樹皮は時間とともに微塵化しやすい傾向があります(Altland et al., 2018)。潅水は上からゆっくり・たっぷり与え、最後は一気に抜くイメージで行うと、表土の攪乱や微塵の移動を抑えられます。鉢の移動時は過度な振動や衝撃を避けて粒の摩耗を防いでください。
✅ 日々のチェックポイント
以下の変化が見られた場合、微塵の蓄積や嫌気化が進んでいる可能性があります。潅水後の排水時間が急に長くなる、鉢底から出る水が濁る、鉢底から泥臭や硫黄臭がする、の三つです。透明な筒に培養土を詰めて水で満たし、底を開けて水位が5センチ下がるまでの時間を比べると、排水の悪化を客観的に把握できます。酸化還元電位計(ORP計)がある場合は、鉢底層で+300mV未満の状態が続いていないかを確認してください(Takahashi & Oka, 2023)。
🌵 品種ごとの考え方――アガベ/パキポディウム/ユーフォルビア
アガベはロゼット形で蒸散を抑えやすいため、やや乾き気味でも体内の水でしのげます。一方で、アガベの根は酸素不足に弱く、浅い鉢で微塵が多い配合を使うと潅水後に鉢全体が長時間しめりっぱなしになり、根腐れのきっかけを作りやすくなります。パキポディウムは太い塊根に対し、成長のカギを握るのは新しい細根の更新です。細根の先端はとくに酸素を必要とするため、パキポディウムでは微塵を最小限に抑え、通気を確保する設計が安全です。ユーフォルビア(多肉茎タイプ)は温度と水分の組み合わせに敏感です。低温期に過湿と酸素不足が重なると回復が遅れがちなので、冬場はとくに微塵の少ない配合と控えめな潅水でリスクを下げてください。いずれの属でも、乾きは潅水で調整できる一方で、酸素不足は潅水では解決できない点を忘れないでください(Bilderback et al., 2013; Grable & Siemer, 1968)。
✅ まとめ――微塵は「管理する対象」、ココピートは「設計して使う素材」
微塵は鉢の水持ちを上げる反面、空気の通り道を減らし、排水を遅らせます。その結果、鉢底の滞留水層(PWT)が厚くなり、根の周囲で酸素不足が起こりやすくなります。病原菌のリスクもこの環境で高まります。一方で、播種や挿し木の初期など短期間・目的限定の局面では微塵の利点もあります。ココピートは粒が細かくても、内部がスポンジ状で繊維が骨組みになるため、無機の微塵とは異なり、適切な配合では通気を保ちやすい素材です。ただし、超微粉の多用・強い圧密・低品質原料は例外で、通気悪化や塩害の原因になります。最終的に成果を左右するのは、粒度分布の設計、鉢の高さに合わせた配合、そして日々の観察と微調整です。
この記事の方針にもとづき、日向土・パーライト・ゼオライトに、粒度を選んだココチップとココピートを組み合わせ、室内でも通気を落としにくいことを重視した配合は、塊根・多肉の根の健全性を支えます。参考として、同じ思想で設計した配合の一例を製品ページでご覧いただけます。🔗 PHI BLEND 製品ページ。
📚 参考文献
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