マグァンプKと塊根・多肉植物

塊根植物・多肉植物を鉢植えで「綺麗に大きく」育てるためには、肥料設計を“効かせすぎず、足りなくしない”バランスで進めることが欠かせません。本稿では、緩効性肥料マグァンプKを取り上げ、🌱その仕組み利点と限界用土との相互作用、そして具体的な運用レシピを、信頼できる一次情報と学術文献に基づいて解説します。冒頭では原理を丁寧にたどり、次に実際の栽培判断へと橋渡しします。最後に家庭でも再現しやすいチェック法トラブル対処まで示します。

目次

1. マグァンプKの「正体」を押さえる――組成と設計思想

マグァンプK化学的緩効性肥料(被覆ではなく成分自体がゆっくり溶ける肥料)で、表示はN–P2O5–K2O–MgO=6–40–6–15です。粒の内部には水溶性成分水に難溶な成分が共存し、前者は灌水で早く効き、後者は根酸(こんさん:根が出す有機酸)微生物、そしてpHの影響で徐々に溶けます(Hyponex, 2014; Hyponex, 2022)。中粒は約1年効くとされ、用土1Lあたり2〜8 gの混和、サボテン・多肉向けに3号で約1 g、5号で約2 gといった目安が提示されています(Hyponex, 2022)。メーカーは状況に応じた液肥の追肥併用も推奨します(Hyponex, 2022)。

この「化学的緩効性」という設計は、温度で放出が加速する被覆型緩効性肥料(CRF)(例:オスモコート)とは対照的です。CRFは21℃を基準に温度が上がると寿命が短く、下がると長くなる一方(ICL, 2022)、マグァンプKは根の活動(酸の分泌)やpHに応じて効き方が変わります。これは、🔬塊根・多肉の灌水が少ない栽培季節変化と整合しやすい一面を持ちます。


2. 溶け方のキモ――ストルバイト型の化学と根圏

マグァンプKのリン供給の中核はストルバイト(MgNH4PO4·6H2O)に相当し、これは酸性で溶けやすく、中性〜アルカリで溶けにくい性質があります(Natale et al., 2022)。多くの植物の根圏は微酸性に寄る傾向があり、根が出す有機酸が働くと、難溶性のリンがゆっくり可溶化して供給されます。したがって「根が動く=必要な時に効く」という自然な同期が起きやすく、植え付け直後の活着支援や根量増加に合理的です(Hyponex, 2014; Natale et al., 2022)。

ただしアルカリ性に傾いた用土(硬水や石灰資材の多用など)では溶解が遅れ、初期の伸びが鈍ることがあります。葉色の淡さや新芽の勢い不足が見られたら、後述の硝酸態窒素(しょうさんたい:NO3を含む液肥で立ち上げを助ける選択が安全です(Niechayev et al., 2024)。


3. 「それだけで十分?」を数で考える――N供給のラフ試算

中粒マグァンプKを8 g/L混和、N=6%とすると、用土1Lあたりの総窒素は0.48 g/年です。単純平均で約9.2 mg/週・L(0.48 g ÷ 52週)となります。実際は難溶成分の比率や根酸の強さ、温度・pHで前後しますが、平均像として「週あたり一桁mg/L台」のN供給と見なせます。

一方、温室コンテナ生産では灌水1回あたり50〜150 ppm N(=50〜150 mg/L)をかける設計が一般的に報告されます(Koukounaras et al., 2013)。多肉・塊根は省肥側に位置づくため同等の濃さは不要ですが、屋外の旺盛成長期頻繁灌水の条件では、マグァンプK単独のN供給は不足しやすいと考えるのが妥当です。メーカー自身が液肥併用を推奨している点(Hyponex, 2022)も、実務的な回答と整合します。

ここで重要なのは窒素の「形」です。マグァンプK由来のNは主にアンモニア態(NH4+である一方、CAM型の多肉の中には硝酸態を含む施肥で生育や緑色度が安定する例が知られます。たとえばウチワサボテンでは「硝酸優勢または等量」が好適と報告されます(Niechayev et al., 2024)。このため、成長を積極的に引き出したい時期には、硝酸を含む液肥を薄く併用する方が安全で再現性が高いと言えます。市販製品でいうと「微粉ハイポネックス」などがこれに該当します。✅


4. 用土が効き方を左右する――PHI BLENDと完全無機の比較

本稿の前提となるPHI BLENDは、無機75%(日向土・パーライト・ゼオライト)+有機25%(ココチップ・ココピート)の構成です。ここで効いてくるのが陽イオン交換容量(CEC)です。これは土がNH4+やK+などの養分をつかまえて、必要に応じて放す力を指します。ゼオライトは高いCECと多孔質で、アンモニウムやカリウム、場合によってはリン酸の一部も保持・徐放し、濃度の乱高下や溶脱を抑える働きを示します(Biswas et al., 2021)。

PHI BLENDではCECと保水・通気のバランスにより、マグァンプKの“ゆっくり効く”特性を活かしやすくなります。対して完全無機用土は配合によってはCECが低く、同じ施肥でも濃度変動が大きくなりやすいため、液肥の濃度と頻度をより丁寧に制御する必要が出ます。特に室内で低灌水運用なら、PHI BLENDの方が塩類ピークの抑制持続性の面で扱いやすい傾向があります(Biswas et al., 2021)。


5. 被覆型CRFとの上手な使い分け――温度依存か、根酸依存か

被覆型CRF(例:オスモコート)は、表示寿命が21℃基準で、温度が高いほど放出が速く、低いほど遅くなります(ICL, 2022)。この「温度依存」は、夏場の屋外で成長を強く押したい時期には心強い一方、猛暑では過放出→塩害のリスクも上がります。マグァンプKは根酸・pH依存で、温度が直接のドライバーではないため、高温時の“暴走”は起きにくい反面、冬の室内ではさらに穏やかにしか効きません。

よって、💡「春〜初夏の立ち上がりはマグァンプK+硝酸主体の液肥で安定を優先」し、「真夏の屋外強勢期はCRFを点的に併用」「秋〜冬は再びマグァンプK主体で穏やかに維持」といった季節スイッチは理にかないます(ICL, 2022; Hyponex, 2022)。


6. 品種ごとの勘所――Agave/Pachypodium/Euphorbia

6-1. Agave(アガベ)

アガベは厚い葉とコンパクトな樹形を保ちつつ、光と温度が揃うと短期間に伸びる性質があります。室内・低灌水では中粒マグァンプKを少量混和し、春〜初夏に硝酸を含む液肥を低濃度で月1〜2回補うだけでも、葉色と新葉の立ち上がりが安定します(Hyponex, 2022; Niechayev et al., 2024)。屋外で日照・灌水ともに多い場合は、CRFの少量併用で押しながら、EC過多に注意します(ICL, 2022)。

6-2. Pachypodium(パキポディウム)

根の過湿と高ECに弱いため、初期は控えめに入れて新根の動きが明確になってから(植え付け後3〜4週など)薄い液肥を足す二段階設計が安全です。微量要素、特にFeへの配慮で葉色のムラを抑えられます(Parvej, 2025)。PHI BLENDのCECと通気は、ピーク抑制に有利です。

6-3. Euphorbia(ユーフォルビア)

種間差が大きい属ですが、急激な濃度変化を嫌う点は共通です。中粒マグァンプKを基軸に据え、硝酸主体の液肥を低濃度・低頻度で補うと、徒長を抑えつつ均整がとれた生育に寄せやすくなります(Niechayev et al., 2024)。


7. Pの厚みと微量要素バランス――長期運用の注意点

マグァンプKはP=40と厚く、初期の根づくりや活着支援には有利です。しかし、長期連用で用土中にリン(P)が蓄積すると、亜鉛(Zn)や鉄(Fe)などの微量要素の吸収が阻害され、新葉の黄化や成長停滞が出やすくなります(Parvej, 2025)。

予防として、📌①微量要素(特にZn・Fe)を含む液肥を低濃度で併用、②月1回の清水フラッシングで塩類をリセット、③植え替え時に古い用土の持ち越しを減らす、という3点が実用的です。PHI BLENDのゼオライトやココ系資材はピーク平滑化に寄与しますが、それでも同一鉢を長期運用する場合は定期的な観察が欠かせません(Biswas et al., 2021)。


8. 家庭でできる「EC管理」――測れなくても見極める

EC(電気伝導度。溶けた塩の総量の目安)は本来メーターで測るのが理想ですが、家庭では次のサインで過多を見極められます(UF/IFAS, 2023)。

・鉢底や表土に白い析出物が目立つ。
・潅水直後に葉先が焼ける、縁が枯れ込む。
・排水にぬめり泡立ちがある、臭いが強い。

これらが続く場合は、月1回を目安に清水でたっぷり潅水して、鉢容量の15〜20%分の余剰水を排出します。これがフラッシングで、塩類の蓄積を下げられます(UF/IFAS, 2023)。メーターがある場合はPour-Through法で排液ECを測り、概ね2〜3 mS/cmを超えない範囲を意識します(UF/IFAS, 2023)。🔁


9. 実装のコアレシピ――元肥×液肥を季節で切り替える

9-1. 元肥(植え付け時)

PHI BLENDに中粒マグァンプKを2〜8 g/L混和します(Hyponex, 2022)。室内・維持寄り2〜4 g/L屋外・成長促進4〜6 g/Lから開始し、反応で微調整します。完全無機用土はCECが低くなりやすいため、同じ量でも濃度振れが大きくなります。まずはPHI基準−1段の控えめ設定で安全を取ります。

9-2. 追肥(置肥・液肥)

置肥として小粒・中粒を新根の動きが出てから少量追う方法はありますが、再現性と安全性を優先するなら、硝酸主体の液肥を低濃度で月1〜2回補う方が失敗が少ないです(Niechayev et al., 2024)。硝酸主体とは、窒素の大半が硝酸態窒素(NO3で構成されており、アンモニア態や尿素態の割合が低いタイプを指します。このタイプは根への刺激が少なく、特に塊根・多肉植物の成長期に安定した効果を発揮します。

日本で比較的入手しやすい硝酸主体の液肥には、以下のような製品があります。

  • 微粉ハイポネックス(N–P–K=6.5–6–19):窒素の大部分が硝酸態で、高カリ設計により徒長抑制や花芽形成にも有効。微粉末を水に溶かして使うタイプで濃度調整がしやすい。
  • ハイポネックス ハイグレード野菜・くだもの(N–P–K=10–5–8):硝酸態主体でカルシウムや微量要素も含む。野菜用として設計されているが観葉・多肉にも応用可能。
  • 大塚ハウス肥料シリーズ(1号・2号):硝酸カルシウムや硝酸カリ主体のプロ用粉末肥料で、硝酸態比率が極めて高い。JAや農材店で入手可能。

いずれも使用時は200〜500倍程度の薄め設定から開始し、葉色や新芽の動きに応じて濃度や頻度を調整します。微量要素(Zn・Fe)を含む製品を選べば、P過多に伴う拮抗への配慮にもなります(Parvej, 2025)。

9-3. 季節の切り替え

春〜初夏低濃度×やや頻度高めで立ち上げ、真夏は高温ストレスに注意して濃度を落とす間隔を伸ばすか、必要に応じてCRFの少量併用で押します(ICL, 2022)。秋〜冬は光量・温度・灌水を落とし、液肥を止めるか月1回の極薄に絞ります。休眠・半休眠期は、マグァンプKもさらに穏やかに効くと考えてください。

9-4. 粒径の使い分け

小粒は初期立ち上がりが速いものの持続は短め、中粒はバランス型、大粒は穏やかで長持ちし、規格によってはFeなど微量要素添加があります(Hyponex, 2014/2022)。実務上は中粒基軸に、活着期に小粒を少量、長期維持に大粒を点的に、というミックス運用が扱いやすいです。


10. 最後に――「元肥で土台、必要な分だけ足す」

マグァンプKは根酸・pHに反応する化学的緩効性として、塊根・多肉のリズムに寄り添いやすい設計です。Pが厚いため植え付け初期の根づくりに強く、PHI BLENDのようなCECを備えた用土ではピークが平滑化され、室内・維持寄りの運用で特に扱いやすくなります。一方、屋外の旺盛成長では硝酸態を含む液肥の併用が現実的で、P過多に伴うZn/Fe拮抗にも注意が必要です。結論として、✨「元肥で土台を作り、必要なところだけ補う」というシンプルな原則が、最も美しく、かつ安全な育成に通じます。


付録:実装の早見表

場面推奨の考え方根拠・補足
元肥混和量PHI BLENDに中粒2〜8 g/L(室内2〜4、屋外4〜6目安)Hyponex (2022)
窒素供給の目安8 g/L→約0.48 g N/L/年→平均約9.2 mg/週・L本稿の手計算
液肥の併用硝酸主体を薄く月1〜2回、Zn・Fe入りを推奨Niechayev et al. (2024); Parvej (2025)
EC管理(家庭)白華・葉先焼け・泡立ちで過多を推定、月1回フラッシングUF/IFAS (2023)
CRFの使い分け真夏の屋外で点的併用(温度で放出↑)ICL (2022)
粒径中粒基軸+小粒で立ち上げ、大粒で長期安定Hyponex (2014/2022)

製品のご案内

CECと通気・保水のバランスを意識した用土として、PHI BLEND(無機75%・有機25%)は、マグァンプKの緩効性を活かしやすい設計です。詳細は下記をご参照ください。

PHI BLEND 製品ページ


参考文献

  • Biswas, B. K., et al. (2021). Zeolite-based nutrient retention and release in horticultural substrates. Agronomy.
  • Hyponex (2014). マグァンプKの仕組みと使い方(技術解説)。
  • Hyponex (2022). マグァンプK 製品情報・Q&A(組成、有効期間、使用量、追肥推奨)。
  • ICL (2022). Osmocote longevity and temperature dependency. 技術資料.
  • Koukounaras, A., et al. (2013). Fertigation strategies in greenhouse crops: a review. Scientia Horticulturae.
  • Natale, W., et al. (2022). Dissolution behavior of struvite under varying pH and citrate. Scientific Reports.
  • Niechayev, A., et al. (2024). Nitrogen form preference in CAM cacti: nitrate vs ammonium. Plants.
  • Parvej, M. R. (2025). Phosphorus-induced micronutrient deficiencies in crops: Extension factsheet. University of Missouri Extension.
  • UF/IFAS (2023). Pour-Through method and leaching fraction guidelines for container media. Extension document.
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次