カリ:働きと施肥のコツ

目次

🌿 カリ:塊根植物・多肉植物を美しく大きく育てるための見えない力

塊根植物や多肉植物を育てていると、「葉がしっかり締まって厚みがある株」と「ひょろっとして頼りない株」に分かれることがあります。この違いを生む要因のひとつが、肥料の中に含まれるカリです。

カリは植物の体を作る材料というよりも、植物の体を上手に動かすためのエネルギーの仲介役のような存在です。窒素やリンが「体の骨組みや筋肉」に例えられるなら、カリは「血液の循環や神経信号」にあたります。葉の開閉、水のやり取り、栄養や糖の移動など、毎日の暮らしに欠かせない仕組みを支えています。

このカリをうまく管理できると、株姿が引き締まり、徒長(ひょろ長くなること)が減り、乾燥や高温にも耐えられるようになります。逆に不足すると、下の葉の縁から黄色く枯れたり、茎葉が柔らかくなったり、塊根のふくらみが止まったりします。

🧠 カリが植物の暮らしを支える仕組み

植物は根から吸い上げた水と養分を体中に運び、光合成で作った糖分を葉から根や成長点に送ります。この「水や栄養の交通整理」をしているのがカリです。

たとえば、葉の表面には「気孔(きこう)」という小さな窓があります。この窓の開け閉めは、カリが細胞に入ったり出たりすることで行われます。日中は窓を開けて二酸化炭素を取り込み、夜や乾燥時には閉じて水分の蒸発を防ぎます。カリが足りないと、この窓がスムーズに動かず、光合成や水の節約がうまくいかなくなります。

さらに、葉で作った糖分を根や塊根に運ぶ「師部(しぶ)」という管でもカリが重要な役割を果たします。カリが十分にあると糖がスムーズに運ばれ、塊根や葉肉にしっかりと蓄えられます。カリが足りないと糖が葉に滞ってしまい、株全体がやせ細ってしまいます。

🌱 カリがもたらす具体的な効果

カリの働きは、植物の見た目や健康に直接影響します。まず、細胞の中に水を引き込んで膨らませる力(膨圧)を高め、茎や葉をしっかりと保たせます。これが、株姿がピシッと締まり、倒れにくくなる理由です。

また、カリが豊富な植物は乾燥や高温、低温といったストレスにも強くなります。高温時でも光合成に使う酵素が壊れにくく、低温時でも細胞膜が傷みにくくなります。さらに、塩分の多い環境でも、カリがナトリウムの害を抑えることで耐塩性が向上します。

つまりカリは、日々の成長だけでなく、厳しい環境を乗り越えるための「体力づくり」にも欠かせない養分なのです。

🌊 根から吸い上げるカリの仕組み

カリは土や培養土の中で水に溶けて存在し、根の表面から吸い上げられます。根は、カリが少ないときと多いときで吸い方を切り替える仕組みを持っています。少ないときは、根がエネルギーを使ってでもカリを引き寄せます。多いときは、水と一緒に自然に入ってくる形で取り込みます。

この吸収のしやすさは、周りの環境にも左右されます。たとえば、土の中のカルシウムやマグネシウムが多すぎると、カリと取り合いになって吸収が減ります。逆に、硝酸(NO₃⁻)という形の窒素が多いと、カリが一緒に取り込まれやすくなる傾向があります。

また、ナトリウム(Na)は一部カリの役割を代わりにこなすことがありますが、完全には置き換えられません。ナトリウムが多くなりすぎると、カリの取り込みが妨げられ、植物が弱ってしまうことがあります。

🔄 カリと他の養分との関係

カリは他の養分とのバランスがとても大切です。肥料を与えるときに、カリだけを増やしすぎると、カルシウムやマグネシウムが吸えなくなり、新芽の先端が黒くなったり、葉の色が抜けるといった症状が出ます。

特にカルシウムは、葉や茎の細胞壁を作る材料で、マグネシウムは葉緑素の中心にある重要な成分です。カリを多く与えるとこれらが不足しやすくなるため、「バランス施肥」が基本になります。

また、リン酸(H₂PO₄⁻)との関係も無視できません。カリはリン酸の移動を助ける役割を持っており、カリが不足するとリン酸が葉に溜まり、鉄や亜鉛などの微量要素が不足しやすくなります。花芽や塊根の充実期には、カリとリン酸をバランスよく与えることで成果が出やすくなります。

つまり、カリは「多ければ多いほど良い」わけではなく、他の養分との釣り合いを意識することで、本来の力を発揮できるのです。

🏺 鉢植え用土の中でのカリの動き

鉢植え栽培では、カリの行方は用土の性質によって大きく変わります。無機質主体の培養土(軽石や日向土など)は、水はけと通気が良い反面、カリをつかまえておく力が弱いため、与えたカリがすぐに流れ出やすい特徴があります。

そこで役に立つのがゼオライトです。ゼオライトは小さな穴のあいた鉱物で、カリをいったんつかまえ、必要に応じて少しずつ放してくれます。これにより、施肥直後のカリのムダ流れを減らし、安定した供給が可能になります。

一方で、有機質のココチップやココピートには天然のカリやナトリウムが含まれていることがあります。導入直後は培地の電気伝導度(EC)が高くなりやすく、根に負担がかかる場合があります。そのため、新しい培養土を使い始めるときは、最初の施肥は薄めから始めるのが安全です。

また、鉢の中では水やりのたびに養分が動きます。特に蒸発が多い季節は、表面に白い塩のような結晶(カリやカルシウムの塩)が出てくることがあります。これは塩類集積と呼ばれる現象で、このまま放置すると根が水を吸いにくくなります。月に一度はたっぷりの水で鉢底から流れるくらいの「リーチング(洗い流し)」を行い、余分な塩分を外に出しましょう。

🧪 肥料の種類と上手な使い分け

カリを補給する肥料にはいくつか種類があり、それぞれ特徴があります。ここでは代表的な4種類を紹介します。

肥料名特徴向いている場面注意点
硝酸カリ(KNO₃)硝酸とカリを同時に供給でき、植物が吸いやすい。塩素を含まない。成長期のメイン肥料として。窒素も多く含むため、休眠期や徒長しやすい時期は控える。
硫酸カリ(K₂SO₄)窒素を含まず、硫黄も補える。塩素を含まない。休眠期や窒素を抑えたいとき。硫酸が残りやすく、与えすぎると土の酸性化やEC上昇の原因になる。
リン酸二水素カリ(KH₂PO₄)リン酸とカリを高濃度で供給できる。花芽形成や根の充実期。酸性が強く、使いすぎるとリン過剰による微量要素欠乏を招く。
塩化カリ(KCl)安価でカリ濃度が高い。塩素に強い作物の露地栽培向け。塩素感受性の高い多肉や塊根には不向き。

成長期は硝酸カリを中心にしつつ、必要に応じて硫酸カリやリン酸二水素カリを組み合わせると安定します。塩素に弱い品種(ユーフォルビアの一部など)では塩化カリは避けるのが安全です。

🧭 カリ施肥の設計と実践

カリをいつ、どれくらい与えるかは、植物の成長段階や季節によって変える必要があります。大切なのは、濃度・頻度・洗い流し(リーチング)の3つをバランス良く組み合わせることです。

成長期(春〜秋の夏型)は、カリと窒素の比率をほぼ同じか、ややカリ多めに設定します。例えば液肥の濃度をEC0.8〜1.2で始め、調子を見ながらEC1.5まで上げることがあります。硝酸カリ(KNO₃)を中心に、葉の色や姿勢を見ながら少しずつ調整します。

休眠期(冬や高温休眠期)は、活動が鈍くなるため施肥は控えめにします。与える場合は極薄い濃度で、数ヶ月に1回程度のカリ補給に留めます。再び動き出す直前に、たっぷりの清水で培養土を洗い、余分な塩分を除いてから施肥を再開すると安全です。

鉢の大きさによっても施肥の間隔は変わります。小鉢はすぐに養分が抜けるので薄めの液肥をこまめに、大鉢は一度にやや多めを与えて長く持たせます。

品種別のカリ管理の一例

アガベ:高光量・高温に強く、成長期はカリ多めで徒長を防ぎます。秋口にはリン酸二水素カリで根や葉の充実を促し、冬は断肥または極薄肥。

パキポディウム:春〜夏の立ち上がりにカリを切らさないことが重要。カリ過多によるカルシウム不足を避けるため、Caとのバランスを意識。

ユーフォルビア:塩素に弱い種も多く、塩化カリは避ける。硫酸カリや硝酸カリを中心に。

冬型メセン類:秋〜冬が成長期のため、施肥サイクルを反転。夏は断肥し、秋に低濃度の硝酸カリから開始。

🧱 PHI BLENDとの相性とまとめ

PHI BLENDは無機質75%・有機質25%の配合で、日向土とパーライトが水はけと通気性を確保し、ゼオライトがカリを保持しながら少しずつ放出してくれます。これにより、無機質主体の用土で起こりがちな「与えたカリがすぐ流れる」問題を緩和できます。

有機質として配合されているココチップやココピートは、初期にカリやナトリウムを含む場合があります。新しい培養土を使い始めたときは、最初の施肥を薄めにして様子を見ると安心です。

カリは、植物を美しく大きく育てるための「見えない力」です。ただ多く与えればよいわけではなく、カルシウムやマグネシウム、リン酸などとのバランスが欠かせません。季節や品種ごとの成長リズムを見ながら、濃度・頻度・リーチングの3点を意識して管理すれば、塊根や葉肉の充実度が目に見えて変わります。

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