PPFDの測り方:スマホ計測と誤差補正

🌟 はじめに:PPFDとは何かと園芸での重要性

🔎 定義と背景

PPFD(光合成光量子束密度)とは、植物の光合成に有効な波長域(およそ400~700 nm)の光子が、植物の葉面1平方メートルに1秒間に何個当たっているかを示す指標で、単位はµmol/m²/sです。これは植物が受け取る光の量を定量化するものであり、徒長防止や生育管理の面で極めて重要です(Greene, 2024)。

🌱 徒長を避ける理由

徒長とは、植物が光不足の状態で光を求めて茎や葉を不自然に伸ばす現象を指します。徒長が起きると茎が細長く弱くなり、葉が小型化して間延びし、葉色が淡くなる場合もあります。塊根植物や多肉植物では株姿が崩れ、組織が脆弱化して病害虫や腐敗のリスクが増えるため、適切な光環境を維持することが重要です(Greene, 2024)。

💡 多肉植物の光要求量とPPFDの目安

📊 強光性と半陰性で変わるレンジ

一般に強い日差し下で育つ地域原産の多肉植物ほど高いPPFDを必要とし、耐陰性のある種類は比較的低いPPFDでも維持可能です。例えば、アガベパキポディウムユーフォルビア(多肉性の種)は乾燥地帯の強烈な日光下に適応したため、栽培でも可能な限り高い光量(PPFD)を確保することが理想的です。砂漠サボテン類など強光性の多肉植物では、生育に適したPPFDレンジが500–2000 µmol/m²/sにも達するとのデータがあります(Photone, 2025a)。

🎯 半陰性種と最低ライン

ハオルチアガステリアなど半日陰を好む多肉では、75–150 µmol/m²/s程度の比較的低いPPFDでも維持可能とされます(Photone, 2025a)。多肉植物全般で徒長を避けるには、最低でも約75 µmol/m²/sの光強度を確保することが効果的です(The Next Gardener, 2023)。

🎨 発色・締まりと光量

エケベリアなどの発色狙いでは、200 µmol/m²/s以上を確保すると色素合成(アントシアニンやカロテノイド)が促進され、葉色が鮮やかになり株姿も締まります(The Next Gardener, 2023)。急な強光は日焼けを招くため、段階的な順化が必要です。

⏱️ DLI(日積算光量)の視点

植物が一日に受け取る総光量であるDLI(デイライトインテグラル、日積算光量)も生育に影響します。例えばPPFD 100 µmol/m²/sで12時間照射するとDLIは約4.3 mol/m²/dayとなります。日光下で育つ多肉ではDLIが10–20 mol/m²/day以上の環境で生育する例もあるため、PPFDと照射時間の両方を設計することが有効です(Photone, 2025a)。

📷 従来の測定手法とスマホアプリ活用の背景

🧪 専用クアンタムセンサーの位置づけ

PPFDを正確に測定するには、本来光量子センサー(クアンタムセンサー:光子数を直接数える受光器)と呼ばれる専用機器が必要です。Apogee社の代表機種などは1台数万円(約350ドル以上)で、一般の趣味家には導入が難しい価格帯です(MIGROLIGHT, 2025)。

📱 スマホアプリで「見える化」

近年、スマートフォンのカメラや照度センサーを利用してPAR(PAR:光合成有効放射)を測定し、PPFDに換算するモバイルアプリが登場しました。これらのスマホ用PPFD計測アプリを使えば、特別な機器がなくても概算のPPFDを得られ、室内LEDの配置調整や屋外日照の定量化に活用できます。日本で入手しやすいアプリとして「Photone」や「PPFD Meter」があり、光環境をデータとして見える化して徒長防止に役立てる動きが広がっています。

🎯 スマホによるPPFD計測の精度と課題

🍎 iPhoneの精度傾向

十分に注意して使用すれば家庭園芸では実用的な精度が得られます。MIGROLIGHTの比較テストでは、iPhone 12+ディフューザーでPhotoneおよびPPFD Meterを用いた場合、プロ用光量子センサー(Apogee SQ-500)比で誤差が±3%以内に収まりました(MIGROLIGHT, 2025)。

🤖 Androidでの注意点

Androidは機種ごとにセンサー特性の差が大きく、iPhoneほど安定しない傾向があります。同テストではGalaxy S22で、未補正のPhotoneが約-33%、PPFD Meterが約-10%と過小評価を示しました。一方でPPFD MeterにBluetooth接続の外部照度計(後述)を組み合わせると、誤差はおおむね+11%程度まで改善しました(MIGROLIGHT, 2025)。

🧭 許容誤差とアプリ選定

園芸用途では±20%程度の誤差は実用上許容範囲と考えられます(Photone, 2025b)。Photoneの検証では、多数の類似アプリの中で十分な精度・直線性・再現性を示したのはPhotoneだったと報告されますが、精度が低いアプリも存在するため実績のあるものを選ぶことが重要です(Photone, 2025b)。

🛠️ 測定誤差の要因と補正方法

🌈 スペクトル差とプロファイル設定

スマホセンサーは人間の視感度に合わせた特性を持つため、光源のスペクトル分布で感度が偏ります。赤や青に尖った育成LED(いわゆるブループルライト)では実際より暗く見積もりがちで、PPFDを過小評価します。アプリの光源プロファイル(日光/LED[フルスペクトル]/HPSなど)を適切に選ぶと、内部の校正係数が作用して誤差が抑えられます(Photone, 2025b)。

📄 ディフューザー(拡散板)の効果

ディフューザー(拡散板)とは、入射光を均一に広げる薄い板のことで、ここではコピー用紙1枚でも代用できます。カメラ前に白紙を貼るとセンサー飽和や入射角ムラを抑え、再現性が大幅に向上します(MIGROLIGHT, 2025)。Photoneも紙製ディフューザーの使用を推奨しています(Photone, 2025b)。

🔌 外部センサー連携(Androidの改善策)

Androidでは市販の外部照度計(例:UNI‑T UT383 BT)をBluetoothで接続し、PPFD Meter経由で値を読み取ると、端末差の影響を小さくできます(MIGROLIGHT, 2025)。外部センサーは工場校正済みであるため、機種差によるバラつきを抑えられます。

🧮 Lux→PPFD換算の取り扱い

Lux(ルクス)は人の明るさの感じ方に基づく単位です。LuxからPPFDへの換算係数は光源のスペクトルで変わります。以下は目安です(Mars Hydro, 2025)。

光源の種類1 Lux あたりのPPFD(µmol/m²/s)
太陽光・白色LED約0.0185
HPS(高圧ナトリウム)約0.012前後

Luxしか測定できない場合は光源に合った係数で換算します。PPFDを直接表示できるアプリではこの換算を内部で処理します(Mars Hydro, 2025)。

🧷 基準光源による手動校正の注意

専用機器との突き合わせ校正を行いたい場合でも、正確な基準光源の準備は難しく、手動補正が却って誤差を拡大する恐れがあります。まずはアプリ推奨の手順とプロファイル選択、ディフューザー使用を徹底することが賢明です(MIGROLIGHT, 2025)。

🚶‍♀️ 実践:スマホアプリを用いたPPFD測定の手順

① アプリ選定と初期設定(📱)

信頼性の実績があるPhotoneまたはPPFD Meterを選びます。光源タイプ(太陽光/LED/HPSなど)を設定し、必要に応じて課金プロファイルを有効化します(Photone, 2025b; MIGROLIGHT, 2025)。

② 測定姿勢と環境の整え方(🧰)

調べたい位置(葉先の高さ)にセンサー面を上向きで静置します。コピー用紙で作ったディフューザーをカメラに貼り、影を作る物体を避け、手ブレが起きないよう固定します。値が安定してから記録します。

③ 面内分布の把握(🗺️ PARマップ)

PARマップとは、栽培面のPPFD分布を点測定で可視化した図です。複数点を測って照明のムラや不足箇所を特定し、照明の高さ・角度・配置を調整します。PPFD Meterにはマッピング機能があります。

④ DLI計算で照射時間を設計(⏱️)

測定したPPFDと照射時間からDLIを算出し、日・週単位の光戦略に落とし込みます。例としてPPFD 150 µmol/m²/sで10時間照射ならDLIは約5.4 mol/m²/dayです(Photone, 2025a)。

☀️ 屋外運用(ベランダ・庭)の要点

真夏の正午の直射日光は1500–2000 µmol/m²/sに達する場合があります(Balci, 2020)。屋内との差が大きいため、半日陰→午前日光→終日日光の順で段階的に順化します。スマホで日陰・半日陰・直射を測り、遮光や置き場を調整します。

🌵 品種ごとの光量ニーズへの応用

🪨 アガベ:ロゼットの締まりを保つ

葉先位置で500 µmol/m²/s以上を目安に確保できると徒長を防ぎ、締まったロゼットを維持しやすくなります(Photone, 2025a)。室内では照明距離と時間を組み合わせてDLIを底上げします。

🗿 パキポディウム:幹の肥大と上面照射

幹頂部をしっかり照らすと肥大が進みやすく、間延びを抑えられます。少なくとも数百µmol/m²/sを維持し、成長点に向けて照明角度を最適化します。

🌿 ユーフォルビア:上限管理で肌焼け回避

柱状や多肉性の種は高光量を好みますが、ユーフォルビア・オベサのような種は強すぎる直射で肌焼けを起こす場合があります。スマホ測定値で上限を把握し、遮光ネットや距離調整で微調整します。

🫥 半陰性多肉(ハオルチア等):最低ラインの確保

PPFDが100 µmol/m²/s前後でも維持は可能ですが、徒長回避には150 µmol/m²/s程度を目安に増光すると安定します(Photone, 2025a)。

🧾 まとめ

📌 実務のポイント

スマホと信頼できるアプリ(Photone/PPFD Meter)を正しく使い、光源プロファイル設定+紙ディフューザーを徹底すれば、園芸に十分な精度(目安:±10~20%)でPPFDを把握できます(MIGROLIGHT, 2025; Photone, 2025b)。測る→分布を整える→DLIで運用する流れが、徒長防止と株の締まりに直結します。

🪴 培養土というもう一つの基盤

光環境と同様に培養土の選択も健全な生育に不可欠です。無機質75%(日向土・パーライト・ゼオライト)+有機質25%(ココチップ・ココピート)という配合のPHI BLENDは、速乾性と通気性を両立し、強光環境下でも根の健全性を支える設計です。詳細はPHI BLENDの商品ページをご覧ください。

参考文献

  • Balci, M. (2020). Measuring Light for Indoor Plants: Using i1Studio as a PAR PPFD Meter.
  • Greene, J. (2024). Etiolation in succulents and how to prevent it. Trex Plants.
  • Mars Hydro (2025). How to Convert Lux to PPFD.
  • MIGROLIGHT (2025). PAR meter apps compared for accuracy.
  • Photone (2025a). Light Requirements for Plants – Find Your Plant’s PPFD and DLI.
  • Photone (2025b). The Best Light Meter App for Plants in 2025.
  • The Next Gardener (2023). How to Care for Succulents with Artificial Lights.
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